密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

室町幕府って、本当にダメダメだったんだな。『図説 室町幕府』

著:丸山裕之

 

 応仁の乱を扱った本が異例の大ヒットを記録してから、室町時代をテーマにした本が地味ながら何冊も出ている。この本もその一冊といえる。

 

 室町幕府は守護たちに支えられた連合政権といわれるが、実際はもう少し複雑である。行政・軍事体制は発足してから時代に合わせて姿を変え、6代目の義教のときでは、管領、守護、侍所(治安・警護)、政所(財政)、奉行人(文官アドバイザー)、奉公人(直属の軍事力)といった形になる。自前の国庫は持っておらず、財産の保管・出納は土倉に外注されている。

 

 室町幕府は、唯一、京都に本拠があった幕府である。南北朝の争いを通じて北朝を立てたこともあるし、天皇家や公家との関係は鎌倉幕府や江戸幕府より密接である。特に義満にはその特徴がよく出ており、多くの廷臣を配下にしている。ただし、足利義昭が織田信長に追放されて京都を去ったとき、付き従った公家は一人もいない。京都にあったので寺社政策も重要で、京都・奈良の大寺院との関係を築き、全国的な祈祷体制も作る。

 

 収入の柱は主に6つ。御料所からの年貢。地頭御家人役や守護出銭など幕府構成員への税。段銭や棟別銭など庶民からの税。日明貿易の利益。禅宗寺院からの収入。土倉・酒屋役などの商業税。しかし、幕府の力の衰えとともに、徴税能力が低下し、慢性的な金欠状態になる。

 

 室町幕府は、鎌倉府、奥州探題、九州探題を置くが、鎌倉府は反幕府でしばしば対立し戦闘が起き、自立した政権色を強める。奥州も強力な支配体制を築くことはできなかった。九州探題職も次第に名目的なものになってゆく。

 

 室町幕府は、多くの合戦・政争に見舞われた。観応の擾乱。攻略の政変。土岐康之の乱。明徳の乱。応永の乱。上杉禅秀の乱。応永の外寇。永享の乱。結城合戦。嘉吉の乱。享徳の乱。応仁・文明の乱。明応の政変。永禄の政変。元亀争乱。

 

 この本を読み終え、この幕府は、よくぞまあ、こんなに脆弱かつアナーキーな状態が続きながらこれだけ長く存続しえたものだと、改めて思った。こんなダメダメな幕府では、日本が戦国時代に突入したのは必然である。この室町幕府に比べたら、それから数十年しか経っていない江戸幕府の堅固な政治体制は、なんだかんだいっても、比較にならないくらい実によく考えられ巧に工夫されたものであり、徳川家康と幕臣たちの企画計画立案能力と立法行政遂行能力に敬意を払いたくなったくらいである。

 

 白黒とカラー印刷のページが半分ずつくらいの構成の本である。特に前半はテーマことになっていて、必ずしも時系列に並んでいるわけではない。とても読みやすいというほどではないものの、資料や図解は多く掲載されており、室町幕府について一通り理解するには適した本である。

 

単行本、166ページ、戎光祥出版、2018/6/5

 

図説 室町幕府

図説 室町幕府

  • 作者: 丸山裕之
  • 出版社/メーカー: 戎光祥出版
  • 発売日: 2018/06/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)