密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

引っ越しを続ける親子。『神様のボート』(2018年新潮文庫の100冊)

著:江國 香織

 

別れた「あのひと」と再会する日を願って、
引越しを繰り返すピアノ教師の女性とその娘の物語。
高崎。今市。川越。高萩、佐倉、そして逗子。
しかし、東京には行ってはいけない。

頻繁に切り替わる母と娘の一人称によって進む。
これによってナレーションが不要となると同時に、
少しずつ成長する娘と変わらぬ母の、
心情と距離感が細やかに読み取れるようになっている。

淡々と話は進む。
後半になるまで大きな嵐はない。
小さなエピソードや過去の思い出を交えながら、
月日は静かに流れてゆく。

あまりにありえない前提の話なので、
実はなかなかなじめなかった。
しかし、作品の良し悪しは読んでいる最中よりも読み終わってから残るものの質によって決まるものだとするならば、この小説は傑作といってよい。
扉を閉じながら、何ともいえない読後感に包まれた。

 

文庫、286ページ、新潮社、2002/6/28

 

神様のボート (新潮文庫)

神様のボート (新潮文庫)

  • 作者: 江國香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/06/28
  • メディア: 文庫
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