著:江國 香織
別れた「あのひと」と再会する日を願って、
引越しを繰り返すピアノ教師の女性とその娘の物語。
高崎。今市。川越。高萩、佐倉、そして逗子。
しかし、東京には行ってはいけない。
頻繁に切り替わる母と娘の一人称によって進む。
これによってナレーションが不要となると同時に、
少しずつ成長する娘と変わらぬ母の、
心情と距離感が細やかに読み取れるようになっている。
淡々と話は進む。
後半になるまで大きな嵐はない。
小さなエピソードや過去の思い出を交えながら、
月日は静かに流れてゆく。
あまりにありえない前提の話なので、
実はなかなかなじめなかった。
しかし、作品の良し悪しは読んでいる最中よりも読み終わってから残るものの質によって決まるものだとするならば、この小説は傑作といってよい。
扉を閉じながら、何ともいえない読後感に包まれた。
文庫、286ページ、新潮社、2002/6/28