密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

アメリカの対中国貿易赤字や教育システムが利用されているといった非軍事についても論じられている。『米中もし戦わば 』

著:ピーター ナヴァロ、訳:赤根 洋子

 

「将来どんなことが起こりえるかをすべて想定できる人間には、その中から最善のものを選び、最悪のものを避ける、最上のチャンスが与えられている」。


 2015年11月に米国で発売された“Crouching Tiger”の日本語訳版である。巧妙かつ狡猾に行われている中国の覇権主義と拡張戦略について、軍事と非軍事の両面から丁寧に検証および解説を行っている。中国の脅威に直接的にさらされ、国境や領海や排他的水域に関して中国と対峙している日本、台湾、ベトナム、フィリピン、インドといった国々についても繰り返し言及されている。

 アメリカの軍事費削減とは対照的に、中国は軍備の増強をひたすら推し進めてきた。5000㎞に及ぶ「地下の万里の長城」と呼ばれるミサイル基地、アメリカとロシアが核兵器を減らしてきた一方で中国が大幅に核の増強を行ってきたこと、米海軍を無力化するためにおびただしい高精度のミサイルを開発し保有していること、原子力潜水艦とディーゼル潜水艦が大幅に増強され、第5世代戦闘機は数多く配備され、サイバー戦争でも非常に大きな能力を持ち、相手の人工衛星を破壊する能力をはじめ宇宙戦争でも高い能力を有していること、何よりこれらは西側の技術をコピーして改良して成り立っているため、低コストで開発できていること。また、独裁国家中国は情報の機密性が高く、向こうは西側の情報を比較的簡単に取れるが、逆は簡単ではない。

 中国は、国際法の解釈を独自に変更し、サラミのように周辺国から海域や島を徐々に削り取り、屈辱の100年を持ち出してそれを正当化する。西側のマスコミには中国でのビザ発行の権限をちらつかせながら中国寄りの報道を書かせるもしくは反中報道を抑制させる。アメリカ国内でも巧みにロビー活動を行い親中勢力を作る。アメリカの教育システムにも取り入っている。アメリカの経済界は中国との関係で利益を得ている集団がたくさんあり反中的な動きに対しては反対活動がおきる。加えて、アメリカ国民には孤立主義の傾向があり、大きなコストを払って大きなリスクを背負ってまでアメリカが遠いアジアの安全保障に関与することに対する疑問の声もある。そもそも、こうやって中国が毎年莫大な軍事費の増強を続けられるのは中国が経済発展を続けているからであり、それはアメリカがニクソン大統領時代に国交正常化を行い、クリントン大統領時代に中国のWTOの加盟を後押ししたことが効いている。そして、莫大な対中貿易赤字を垂れ流し続けながらアメリカから中国に渡っているおカネが人民解放軍の増強資金になっていることも指摘されている。

 非常に考えさせられた。同時に、日本としてもこのような中国の脅威に対して何とか対策を練っていかなければならない、ということを強く実感させられる。増強を続けてきた人民解放軍と共産党の一党独裁体制の強みを生かした中国の深淵な陰謀と恐るべき実力が見えてくるし、これに対抗することは簡単ではないこともはっきり示している。とても読みごたえのある本だった。

 

単行本、412ページ、文藝春秋、2016/11/29

 

米中もし戦わば

米中もし戦わば

  • 作者: ピーターナヴァロ,赤根洋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/11/29
  • メディア: 単行本