著:キャシー ハント、訳:龍 和子
ニシンは畜産が発達するまでヨーロッパの食を支える大切な食べ物であり、タラと並んで歴史を支えてきた魚であった。12世紀までにはヨーロッパの人々は主食のパンとニシンを常食としていたという。海洋権益という概念が生まれるきっかけにもなったし、「ニシン戦争」が勃発したこともあった。大群で沿岸に押し寄せ、島が出現したように思われることもあった。
ニシンは遠海魚である。タイヘイヨウニシン、タイセイヨウニシンといった種類がある。同じニシン科のイワシと間違えられることが多い。ニシンは人間の食用になるだけでなく、鯨や海鳥や大型の魚のエサになる。多くの捕食者がいるためニシンのメスは毎年2~5万個の卵を産み、オスが放精する。5~15世紀において、ニシンは物々交換や各種支払い、人質・捕虜との交換に使われた。海沿いにはニシン漁で栄える港町がいくつもあった。バイキングたちは日常的にニシンを食べていた。オランダもニシンで栄えた。
人間の食用としても古くから重視されてきたが、腐りやすいので、塩漬けや酢漬けにされてきた。塩漬けしてから燻製にする方法もある。缶詰の食材にもなった。ニシンには、リン、カリウム、セレニウムが多く含まれており、オメガ3脂肪酸のように健康に良いとされる不飽和脂肪酸を多く含む。ビタミンDは1日の所要量の76%、ビタミンB12は4倍も含む。北米では効率のよい肥料として使われた。各地に様々なニシン料理がある。
日本とニシンについても登場する。北海道がニシン漁で栄え、江戸時代にはニシンは肥料として重用された。ただ、捕りすぎて漁獲量が大きく減り、日本では北米海域でも活動するようになった。西洋では「貧乏人のキャビア」と称される数の子が日本では大切にされてきたことについても言及されている。
「食の図書館」シリーズの一冊。西洋は肉の文化というイメージが強くあるが、今のように畜産が一般的になる前にはニシンやタラが食において大変重要なものであったことがわかる。
単行本、182ページ、原書房、2018/4/27
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