密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

〈オールカラー版〉 魚はエロい

著:瓜生 知史

 

 海中の生物の様々な生殖行動について紹介した本。タイトルも文章も、少しふざけているような軽い感じがする。しかし、そこにだまされてはいけない。表面的な書きぶりはともかく、本文で取り上げられている中には、かなり珍しい瞬間を観察したものもある。しかも、オールカラーで写真が多く掲載されている。おそらく一般向けに関心をもって読んでもらうために面白おかしくしているだけのことで、海中生物の生殖に関して長年にわたって繰り返し海中に潜って調べてきた著者がため込んできたフィールドワークの成果と知見が数多く盛り込まれている。

 体内配偶子会合型という不思議な生殖行動をとるアナハゼの不思議な生殖行動。カサゴの抱き着き交尾。激しいサメの交尾と左右に2本あるクラスパー。15分の1秒に賭けるウミタナゴのオスとメス。繁殖期になると前年の繁殖期と同じ相手を見つけてペアを組むクロホシイシモチ。他の群れとは交わらず、同じ群れの仲間との間だけで頻繁に体を触れ合わせているゴンズイ。キスのように口と口を合わせているマツバスズメダイの求愛。ウツボもまた、怖そうな顔つきからは似合わない鼻先を突き合わせた求愛をする。性成熟する前は雌雄両方の性を持ち、途中で性転換することもあり、グループ産卵時はオスがメスを選ぶホンベラ。放卵放精タイプの過酷な精子競争。交尾をする魚でもメスが複数のオスと交尾するタイプの場合は、先のオスの精子を掻き出したしたり弱らせたりするような過酷な競争がある。メバルは放尿と生殖活動に関係がある。カワハギの生殖を賭けた争いと仲裁のような行動。体色のバリエーションが豊富なスナビクニン。スニーキングと呼ばれる産卵行動をとる魚たち。タコやイカは腕を活かした求愛と生殖行動をとる。ボウズコウイカのオスはメスに近づくと腕でハートマークを作るという。サザエの放卵の様子はTV番組で放送禁止にされたそうだが、ここではリアルに写真が載っている。クリオネは2匹が腰を動かすようにして踊って結合する。ウミウシにはオスがあそこを切断する種類があり、3回分の予備もある。ウミフクロウのオスは生殖器同士で戦う。このような感じで、海の中で繰り広げられている海の生き物たちのドラマが次々出てくる。

 子孫を残すことは、生命にとってもっとも大切なことだ。陸上の生き物たちも、海の生き物たちも、オスは自分の遺伝子を残すためにメスは少しでも優れたオスの遺伝子を選ぶために、様々な進化を遂げてきた。しかし、その肝心の行動はたいてい一瞬であり、観察に苦労するものも少なくない。下ネタ混じりの軽妙な解説を楽しみながら、生命の営みの不思議さを想った。

 

新書、220ページ、光文社、2016/8/17

〈オールカラー版〉 魚はエロい (光文社新書)

〈オールカラー版〉 魚はエロい (光文社新書)

  • 作者: 瓜生知史
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/08/17
  • メディア: 新書