著:ポリー・プラット、訳:桜内篤子
読んでいる途中で、何度か吹き出しそうになった。フランスにやって来た外国人が不愉快にさせられた山のような体験談とエピソードに基づき、ユーモラスかつ具体的に書かれている。
元々英語圏向けに書かれた本だが、著者が主催するフランスの文化に慣れるためのセミナーには日本人も多く参加しているそうで、日本語版の出版にあたってフランスで苦労した経験のある日本人のコメントをいくつか挿入したという。
いくつかポイントをまとめると、例えば、外国人の感覚(左側)とフランス人の感覚(右側)には、以下のような違いがあるという。
・フランス人は冷淡 → (フランス流)意味もなく笑顔を見せるのは不気味
・店員に何かを頼んでも拒否される → (フランス流)相手をその気にさせるように説得するもの
・フランス人は嘘をつく → (フランス流)真実は必ずしも美しくない
・フランス人は嫌味 → (フランス流)頭を使い機知に富んだ会話を求める
・堂々巡りの議論に時間をかける → (フランス流)事前の計画や理論こそ重要
・女性に色目を使う → (フランス流)異性との戯れを大切にする
・約束の時間に遅れる → (フランス流)それで地球の自転が止まるわけではない
・役所や郵便局で待たされ不快な目に遭う → (フランス流)担当者も人間なのだからきちんと人間的な関係を作るようにすべき
・女性はちょっと買い物に出るだけでもおしゃれをする → (フランス流)女なら当然のこと
・クルマの運転が荒い → (フランス流)パリでは外国人はメトロに乗るべき
・フランス人は謝らない → (フランス流)面目の方が大切なのでユーモアに包む方がよい
・指示に従わない → (フランス流)個人主義では自分の美的感覚が優先
・先生や上司がほめない → (フランス流)やたらほめるのは不自然
・友達になるのが難しい → (フランス流)一度友人になるとべったりつきあう
ディナーに関する注意点だけでも、読んでいて頭がくらくらする。食事は儀式でもある。いろいろなマナーがあり、例えば4時間のディナーの間トイレでの中座は厳禁。ひとひねりもふたひねりもある機知を込めた飛び交うフランス語の会話の中で、外国人はあらかじめ懸命に仕入れてきたことを少し喋るだけで、十分努力したと褒めたたえられるらしい。その一方で、以下のようなことも書かれている。
・すべての人が6週間のバカンスを与えられる
・高度な医療と教育が万人に与えられる
・雇用が安定している。収益よりも雇用が重要。
フランス流で大切なのは、人間そのもの。そして、経験よりも、頭の良さや機転が尊重される。アメリカ的な拝金主義は軽蔑される。とにかくやってみるという試行錯誤よりも、事前に時間をかけてあらゆる可能性をきちんと考え抜くことの方が大切だとされる。数学が重視され、教育は厳しく、学校では勉強以外のことはほとんど教えられないので愛校精神もわかない。
おいしい料理と芸術の国であると同時に、TGVに代表される科学技術大国でもある。フランス語への情熱が熱い。ヒエラルキーがあり、官僚的。大事な情報は抱えてしまって公開しない。法律が重視されるが、それを破ることを正当化する理論も結構尊重される部分がある。また、こういう国になった背景として、フランスの歴史についても説明されている。
この本を読みながら、日本では「西洋」とひとくくりにされがちだが、フランス人はアングロサクソンとはずいぶん違うな、ということを思い知った。もちろん、日本人とも異なっているが、高コンテキストな社会という点では意外に共通する部分もある。アメリカやイギリスのような価値観だけが西洋ではない、という当たり前のことに気づかされた。オリジナルは結構古い本のようで、たぶん今はだいぶ違うところもあると思われるが、面白かった。
単行本、388ページ、CCCメディアハウス、2017/5/30
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