著:磯山 友幸
「値下げ競争を続けていると、消費者は製品に敬意を示さなくなる。10ドルで売っているようなブランドの製品を妻や友達にプレゼントするような人はいない」。
「日本メーカは価格を重視して戦略を立てているが、それではダメだ。価格主導で需要喚起できるのは最低価格帯だけ。しかも、その価格帯では利益を出すことはできない」(スウォッチ・グループ:ニック・ハイエック)
日本でも「レクサス」のようなブランド戦略をとっている企業はあるが、企業名=ブランドという例が圧倒的に多い。しかし、スイスには以下のようにブランドによって商品を差別化して成功している企業が多い。本書は、その秘密と背景に迫った本である。
- スウォッチ・グループ:「オメガ」、「ロンジン」、「ラドー」、「スウォッチ」
- リシュモン・グループ:「カルティエ」、「ダンヒル」、「モンブラン」、「クロエ」
- ネスレ・グループ:「ネスカフェ」(コーヒー)、「ブイトーニ」(パスタ)、「マギー」(調味料)、「ミロ」(飲料)、「ヴィッテル」(ミネラルウォータ)、「フリスキー」(ペットフード)
これら以外にも、UBSクレディ・スイスに代表される金融機関、ノバルティやロシュといった医薬品会社、人材派遣業世界最王手のアデコといった企業が、このわずか人口730万人の国に籍を置く。
企業レベルだけでなく、それらを生み出すスイスという国家自体の特徴や歴史も紹介している。高い物価、狭い国土、教育重視、勤勉性、強力な銀行の守秘義務、低い法人税、相続税が無い、生活の質の高さ、国民の多言語能力。スイスという国自体がひとつのブランドになっているという。一方で、航空業界のように失敗例もある。最後に著者は、日本がスイスから学べる点として、以下の7つを挙げている。
1.高付加価値経済と強い通貨
2.プライベートバンク機能
3.美しい国土
4.活力生む若手活用
5.老人が早期に会社以外の人生を求め、若者へのチャンスを与えて社会も活性化
6.外国人の活用
7.小さな政府
「スイス企業のブランド戦略に、中国に追い上げられる日本企業が学ぶことは数多いはずである」という著者の指摘は印象に残る。多少円安に触れたとしても、新興国との価格競争の道は厳しい。
一方、勤勉性や国土の狭さは共通するが、日本はスイスとは違うユニークさを持った国である。この国の強みや良さを意識して強化・アピールすることで、様々な形で世界で存在感を高めるにはどうすればいいのか、少し古い本だが、その可能性についていろいろ考えさせられた。
単行本、230ページ、日経BP社、2006/2/23