密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

アメリカ人はどうしてああなのか

著:テリー・イーグルトン、訳:大橋 洋一、吉岡 範武

「合衆国は、独特に内向きの社会であり、国務省を除けば他国に対しての意識があまりにも薄い。…(中略)…おそらく合衆国は必要とされている地理の知識を国民に授ける方法として、他国を侵略しているのだろう。バグダッドを打ちのめす決断をすれば、それがどこに存在しているかみつけるための大きな動機づけとなるからだ」。


 ユーモアと皮肉と洞察に富んだアメリカ人論である。アメリカ人というのは極めて多様な人々であることは著者も十分承知しているが、多数を占める項目に目を向けていけば一般論は展開できないことはない。本書はそういう視点でアメリカ人の多くの人に見られる特質を、ヨーロッパ、とくにイギリスとの比較で語っている。結果として、この本は、イギリス人論の側面もある。

 また、イギリス人とアイルランド人も明確に分けて書いており、「ついでながらアイルランド人とイギリス人との鍵となる相違点というのは、アイルランド人が総じてアメリカ人を好きなのに対してイギリス人は一般的に言えばアメリカ人が好きではないということだ」などど、書いている。著者は、イギリスの批評家・思想家。

 人なつっこく、情緒的であけっぴろげ。親切でおせっかい。同じアングロサクソン系であっても、イギリスを歩いているアメリカ人は太っていてチェックの趣味の悪い服を着ているので一目でわかる。

 包み隠さず平明にしゃべる。リーダーは人間的であることが求められる。アメリカ的な一家団欒な雰囲気。宗教と市民精神の強い結びつき。頑張ればできないことはないのだという詐欺的な原理を信じていながら、一向に先進国で最悪レベルの貧困を撲滅しようとしない。

 アメリカは、ヨーロッパに比べて、合理的、効率的、省力的、経済的。否定的な言い方を避ける。伝統や因習は非個人的なものとして考えられ、それよりざっくばらんさが好まれる。形式は意味のあるものしか支持されない。

 イギリス人とアメリカ人の使う英単語の違いや表現の違いについても多くのページが割かれているが、ここは英語に通じていないと日本人には少しわかりにくいかもしれないが、全般的にアメリカ人やアメリカに対する記述には特に違和感はなく、日本人から見ても納得するような指摘が多い。むしろ、対比として書かれているイギリス人に関する記述や、日本人からすると違いの分かりにくいイギリス人とアイルランド人の違いの方に新鮮さを感じるところが多かった。

 「この親切で、暴力的で、また偏狭で、寛大な精神に富む国家についてのグッドニュースとは、もし将来、この惑星で核戦争が起こったとしても、アメリカ人は、真っ先に、身を隠していたクレーターの端から這い出してきて、体の塵をはらい、そして新世界建設へと向けて邁進するだろうということである。バッドニュースとは、核戦争を始めたのは、おそらく彼ら以外にいないということである」。

 
 翻訳ものということもあるだろうが、少々冗長な文章ではある。ただ、その中に、辛辣なユーモアがあちこちに埋められていて、時々爆笑しそうになる。いかにも、イギリス人の知識人が書いたアメリカ人についての本という感じである。

 

文庫、288ページ、河出書房新社、2017/7/5

アメリカ人はどうしてああなのか (河出文庫)

アメリカ人はどうしてああなのか (河出文庫)

  • 作者: テリー・イーグルトン,大橋洋一,吉岡範武
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/07/05
  • メディア: 文庫