著:森山 大道
森山大道は不思議な写真家だ。美人を撮るのでもなければ、美しい景色を美しく撮るということもなく、いったい何が映っているのかよくわからないものすら珍しくない。そうして、「アレ・ブレ・ボケ」と評される写真を世に送り続けてきた。この「遠野物語」もまさにそういった写真集のひとつである。もちろん、柳田国男の有名なものとは全く違う。なのに、ここには確実に「日本」のひとつの地方のひとつの時代が映っている。
文庫なのでサイズが小さいのが残念ではある。ただ、もっと大きいのに越したことはないのだが、森山の作風からいくと、小さくてもそれはそれである程度は我慢できる。どうせ、大きくしたところで、すごい美しいものが映っているというわけではないのだし。さらに書くなら、この人の場合、何が映っているかは実はそんなに重要ではないかもしれない。もっと書くなら、エッセイ部分もあるが、はっきりいって、大した文章だとは思えない。
しかし、やはり森山の作品はすごい。天才である。間違いなくひとつの時代を作ったし、極めて当時の日本的な部分をとらえてもいる。タイムカプセルに入れておくべき価値のある見事な作品集である。
文庫、221ページ、光文社、2007/4/12