著:田島慶三
「しかし、ある化学分野が縮小しても、化学会社が一緒になくなっているわけではありません。化学会社は蓄積した力に、新たな科学技術を積み重ねて新しいニーズに対応した化学工業分野を生み出してきたのです。それが、日本の化学産業を支えてきた力の源です」。
「図解入門業界研究」シリーズの一冊。化学業界について。適時改訂が行われているようで、これが第5版。ベストセラーとは言えないものの、底堅い需要があるのだろう。ここでは、経済産業省から民間の化学会社に転職して2008年に定年退職したという著者による幅広い化学業界への力のこもった解説が行われている。
実際、ひとくちに化学産業といってもその範囲は広い。石油化学、化学繊維、人工皮革、高分子全般、薬品、洗剤や化粧品、ゴムやタイヤ、農薬や肥料、調味料、電子材料、青色LED、リチウムイオン2次電池、有機EL。自動車や鉄鋼ならピラミッド構造で幅ひろいものの大手企業は限られていることもありわかりやすいが、「化学」は多岐な分野を含んだくくりであるため全分野に精通している人は業界でもそんなに多くはないだろう。
2015年の日本の産業別研究開発費はエレクトロニクスが1位で3.3兆円、次いで自動車産業が3.0兆円、化学は2.6兆円で3位。研究開発費の対売上高比率は化学が1位である。
ただし、国別の規模でいくと日本の化学産業は新興国の追い上げを受け、2000年代に入って中国に次ぐ第3位になっており、韓国も背後に迫ってきているという。汎用品では既に新興国にシェアを奪われる形になっている。
それに対して日本の化学産業は、強力な事業に力を集中してグローバル展開すること、新しい化学産業分野を生み出すことによって対抗してきている。電子情報材料がその例であり、スーパーエンジニアリングプラスチックもそうである。自動車でのプラスチック部品の比率が高まっているというような流れもある。
各分野、世界と日本、歴史的な経緯といった切り口での解説がある。読み終えて痛感したのは、化学産業は変貌を続けてきた産業だということである。高機能電池、ナノバイオテクノロジーなどの分野もある。一方、日本の化学業界の再編は避けられないものとして指摘されている。
単行本、264ページ、秀和システム、第5版、2018/2/27
図解入門 業界研究 最新化学業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本 第5版 (図解入門業界研究) [ 田島慶三 ]
- ジャンル: 本・雑誌・コミック > ビジネス・経済・就職 > その他
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 1,512円