密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

海藻王国―海の幸「海菜」をベースとした日本独自の食文化を味わう (農と食の王国シリーズ)

編集:エコハ出版、著:鈴木 克也

 

 海藻についての本。厳密な専門書というよりも、昆布、のり、てんぐさ、ワカメ、ひじき、モズクといったものを取り上げて簡単に紹介しながら、その産業に従事する関係者のインタビューを加えたものである。

 

 日本は島国であり、沿岸に生育する海藻は多種多彩。縄文時代の遺跡の土器からも海藻が食べられていた跡が出てくるように、古くから日本人にとって普通に食材であったことは確実とみられる。大宝律令の中でも当時の税の「調」の中で海藻がとりたてられている。また、海藻は乾燥させると軽く運搬が容易になるので、特産地から商品としても流通した。ただし、海藻類の安定した生産ができるようになったのは、昭和初期に養殖の研究が行われるようになってからになる。

 

 昆布は日本ではほとんどが北海道で産出される。地域ごとに特性が異なっており、ブランドにもなっている。南茅部(現函館市)の元町長と元共同漁協組合会長が、養殖によってそれまで2年に1回だったのが毎年収穫できるようになった、その技術の普及に努めた長谷川由雄さんの功績は大きい、と語っている。

 

 海苔もまた、日本では古くから食されてきた。大宝律令においても紫菜(むらさきのり)が租税対象になっている。江戸期に入ると浅草海苔が大きな市場を形成し、海苔は庶民の料理に欠かせないものとして普及した。ただ、戦後の成長期に東京湾は埋め立てや工業化によって産地の一大中心地から後退することになる。一方、戦後は養殖法が広がった。中国や韓国での生産も増えており、特に韓国での生産はほとんどが輸出用になっている。

 

 テングサを使った寒天づくりは、農業の副業として家内手工業的に生産が広がった。伊那食品工業が工業化に成功し、現在、国内生産の80%、国際シェアの15%を占めている。この会社の話には多くのページが割かれているが、なかなか感動的だ。リストラせず長期安定経営を続け、ゲル化材料として幅広い研究開発をしているという。会長がインタビューに応じている。

 

 ワカメ・ヒジキ・モズクはまとめて簡単な扱いになっている。ワカメの普及では理研食品株式会社の渡辺博信氏の貢献の大きさが強調してあり、理研ビタミン株式会社の取締役事業戦略部長がインタビューに応じている。

 

 地味な本で、科学的にも歴史的にもすごく詳しいというわけではないし、ワカメ・ヒジキ・モズクについてはまとめてひとつになっているがもう少し分量的にあってもいい気がしたが、まじめに書かれた海藻の本である。

 

目次

第1章 海藻の魅力
第2章 昆布のすべて
第3章 町民の食文化となった海苔
第4章 テングサの用途拡大
第5章 ワカメ・ヒジキ・モズクの生産と消費―養殖により庶民の食文化に
第6章 海藻利用の未来

 

単行本、193ページ、日本地域社会研究所、2018/1/1

 

海藻王国―海の幸「海菜」をベースとした日本独自の食文化を味わう (農と食の王国シリーズ)

海藻王国―海の幸「海菜」をベースとした日本独自の食文化を味わう (農と食の王国シリーズ)

  • 作者: 鈴木克也,エコハ出版
  • 出版社/メーカー: 日本地域社会研究所
  • 発売日: 2018/01/01
  • メディア: 単行本