密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像

著:斎藤 美奈子

 

「紅の戦士は、全員、美少女または美女である。加えてアニメの場合は巨乳である。ホルスタイン級のバストを張りつけた細い身体の上に、お目々の大きな子ども顔が、木に竹をついだようにのっかっている。男の子の国では、採用差別が堂々とまかり通っている。男の隊員に求められるのは能力だが、女の隊員に求められるのは容姿なのだ。顔写真と全身写真の提出のほか、履歴書にはスリーサイズなども書かせているにちがいない」。


 アニメや特撮のヒロイン像を論じたものである。古本でお安く買った。ヘレン・ケラー、キュリー夫人、ナイチンゲール、ジャンヌ・ダルクの伝記の話にもかなりのページ数が割かれている。

 古い本なので少し心配していたが、杞憂だった。しかし、内容は予想とはちょっと違っていた。確かに、アニメや特撮のヒロインの話は最初から本書の中心を占めているが、誤解を恐れず書くなら、著者が本当に語りたいのはアニメや特撮の話ではない。これは、フェミニズムの本だ。少女の頃に伝記やアニメに夢中になり、大人になって目覚めたフェミニズムの観点から、大衆娯楽として君臨してきたアニメや特撮に反映されているそれぞれの時代の女性に対するイメージと立ち位置についておさらいしてみたという感じである。実際、著者は最後の方で、はっきり次のように書いている。

「魔法少女も紅の戦士ももう古い。クインビー症候群もバタフライ症候群も旧弊な点ではいい勝負である。アニメの国も伝記の国も、いやそれだけじゃなく、どんな社会も、たくさんの女性の参入で何かが変わるはずである。紅一点とは第一に数、第二に質の問題である。質と数をともなった新しいヒロイン像は、数と質をともなった現実社会に生きる女性の中からきっと生まれてくるだろう」。


 それにしても、面白いねえ、この本。そして、ところどころにちりばめられている毒舌が冴えている。著者にかかれば、かつての少女向のマンガに出てくる主人公の魔法少女たちは「父親から見た理想の娘」であり、『宇宙戦艦ヤマト』の森雪は「体のいい下働き兼職場の花」であり、『ガンダム』の女性たちも森雪よりははるかにましだが「男との関係性の中でしか生きていない」と、一刀両断である。総体的な見方としては今や数あるアニメ・特撮文化論からそう外れたものではないのだが、女性目線の立ち位置から繊細で時に勢いのある文章でぐいぐい引き込む。一気に読んでしまった。

 

文庫、328ページ、筑摩書房、2001/9/1

 

紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像 (ちくま文庫)

紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像 (ちくま文庫)

  • 作者: 斎藤美奈子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2001/09/01
  • メディア: 文庫
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