著:八子 知礼、杉山 恒司、竹之下 航洋、松浦 真弓、その他
今やたくさん出ているIoTについての本。複数の著者によって書かれていて、一部で著者の所属する会社のソリューションが強調されていたりするようなところはあるが、IoTに関する基本的な知識がバランスよくまとめられていてわかりやすい。
最初に、ドイツのIndustry4.0やアメリカのIIC、日本での全体的なIoTへの取り組みの概況について簡単に書かれている。つながるデバイスは今後どんどん増えることが予想され、IoT市場も大きくなってゆく。
技術的な背景としては、第3のプラットフォームの台頭があるとして、「低コストで調達・実現できる」「実装期間を短縮できる」「モジュール化により汎用性が高い」「データを大量に生成・処理する」の4つの特徴があるとして、以下の4つがあるとしている。
- S:ソーシャルネットワークの普及
- M:スマートフォンの普及
- A:ビッグデータアナリティクス
- C:クラウドの普及
IoTのリファレンスモデルとしては、著者たちが提唱するレイヤー1からレイヤー8のものと、CiscoのIoT World Forumの7層のリファレンスモデルが紹介されている。
IoTはすべて1から作っていたのでは間に合わないので、IoT用のプラットフォームを活用することが普通である。主要な機能として以下のものが挙げられている。
また、開発ツールとして、ThingWorx(PTC)・MotionBoard(ウィングアーク)、IoTプラットフォームとして、SORACOM、HULFT IoT、enebular(ウフル)の説明もある。
通信におけるLPWAについては、LoRaWAN、Sigfox、NB-IOTの比較表があり、RPMA(Ingenu), Sensus(Flexnet)についても触れられている。LANの規格としては、Bluetooth Low Energy(BLE)とそれを応用したBLE beaconの話がある。よくBluetoothと比較されるZigBee、スマートホーム市場向けのZ-Wave、2,4GHz帯の15チャネルを使いすべてのノードがルーティング機能を持つメッシュ型のDust Networksが紹介されている。
エッジコンピューティングについては、IoTプラットフォームと末端の中間にあたるGatewayにあたる部分と末端のエッジデバイスに分けて説明がある。類似の概念であるCiscoのフォグコンピューティングについても言及されている。また、AWS IoTやSDKやAWS IoT Button, さくらインターネットのIoT、FogHorn Systems,、ARMのmbedについても紹介されている。そして、IoTのデバイスとしては、以下のようなものが説明されている。
- 個人向け:GPS、加速度センサー、ジャイロセンサー、照度センサー、近接センサー、指紋センサー(例:Fitbit、AppleWatch、オムロンのカメラデヴァイス、Amazon Echo)
- 自動車用:車速、圧力、スロットル、O2センサー、排気温度、エアフロー、水温、カメラ、ミリ波レーダー
- 設備機器用:圧力、加速度、振動、電流・電圧、重量、変位、流量、回転、音波、可視光、紫外線、赤外線、温度、湿度
IoTデータの特徴として、以下の5点が挙げられている。ここは単なる紹介ではなく、よく特徴をとらえた解説がされている。
- データ量が継続的に増大する
- 様々なタイプのデータが混在する
- データにはノイズが生じる
- データにはタイムラグが発生しやすい
- 取得するデータの追加や変更が頻繁に行われる
また、IoTデータの活用に関しては、収集→蓄積→整形→集約→分析→可視化→検証、というプロセスのループで説明されている。
分析ツールとして、PowerBI, Motion Board, Tableau, Pentahoなどがあり、線形回帰分析・ロジスティック回帰分析・相関分析・アソシエーション分析(商品レコメンド用など)、クラスター分析・決定木分析、インバリアント分析について簡単に説明されている。また、分析にあたっては、IoTデータだけでなく、業務データ・Webログ・SNSデータ。オープンデータとうまく組み合わせることが大切だとされている。AIについても触れられている。
セキュリティや運用を含めた課題や考慮点についても取り上げられている。電池や機器の交換、設置環境、IoTデバイスのセキュリティ、トータルセキュリティ、課金、継続的な投資の重要性といったことがあげられている。全体的には良い本である。
単行本、288ページ、SBクリエイティブ、2017/10/19