密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

哲学の最新キーワードを読む 「私」と社会をつなぐ知

著:小川 仁志

 

 現代における脱理性主義の多項的知として、以下の4つの知を俯瞰することで、どのような「公共哲学」が構築されるのかを、現代の哲学に関する理論や意見を紹介しながら論じた本である。

 

  • 感情の知:ポピュリズム・再魔術化・アートパワー
  • モノの知:思弁的実在性、OOO(トリプルO)、新しい唯物論
  • テクノロジーの知:ポスト・シンギュラリティ、フィルターバブル、超監視社会
  • 共同性の知:ニュー・プラグマティズム、シェアリング・エコノミー、効果的な利他主義

 

 フランスの哲学者カンタン・メイヤスーの相関主義(物事は人間との相関的な関係によってのみ存在しうるという考え方)と偶然性の必然性を提唱する。アメリカの哲学者グレアム・ハーマンは、オブジェクト指向存在論と4方界(実在的対象・実在的性質・感覚的対象・感覚的性質)及び4つの関係性(時間・空間・形相・本質)を提唱し、モノに関する新しい世界観を提案する。唯物論の立場から心の再定義を試みる主張もある。

 カーツワイルはシンギュラリティの概念を提唱し、人間と機械、物理的幻術とバーチャルリアリティとの間には区別が存在しない時代がくるとする。インターネットが浸透した世界では、位置情報などあらゆる情報がネットに蓄積されることで企業や国が個人を監視することが容易になる。情報に基づく個人の差別が可能になり、個人をコントロールすることもできる。プラグマティズムの再定義の試み。

 ポスト資本主義とシェアリング・エコノミー。モラルエコノミー。多様な価値観や自由な競争を認めながら共存の道を探る方策について。

 

 どこまで賛同するかはともかく、IoTやAIやインターネットやロボットがテーマとして登場し、テクノロジーによってもたらされた社会的な変化に対する戸惑いを哲学の面から考えてみるという点で一読の価値のある内容を含んでいるように思われた。

 

 尚、この本で、バーチャルリアリティ(VR)を、「拡張現実」と書いている箇所があるが、これは誤りである。VRは「仮想現実」のことであり、「拡張現実」はAR(Augmented Reality)のことである。

 

新書、208ページ、講談社、2018/2/15

 

哲学の最新キーワードを読む 「私」と社会をつなぐ知 (講談社現代新書)

哲学の最新キーワードを読む 「私」と社会をつなぐ知 (講談社現代新書)