著:磯田 道史
江戸時代末期の下級武士に関する歴史研究の成果をまとめた第一級の研究報告資料である。しかも、大変面白く、現代に生きる我々にも通じる様々な教訓がにじんでいる。
磯田氏が史料を発見し、この本を世に出すまで、世間的には全く知られていない下級武士の残したデータであるが、実に生々しくその時代と人々の様子を語っており、半端な歴史小説を読むより遥かにリアルでぐっと胸に迫ってくる。
実は入出金記録の調査分析という方法は歴史研究の手段としては特に目新しくはない。しかし、一介の下級武士がここまで長期に細かく几帳面につけていたというのはすごい。幕末から明治の激動の時代にこの一家が、その卓越した数学及び財務面からの管理能力をいろいろな機会で評価されて下級武士から徐々に身分を上げていったのがわかる気がする。
滅多にないこのような貴重な記録を入手できたという点ではこの著者は運に恵まれている。しかし、それをさらにこのように多くの人にわかる形にして丹念に解きほぐして著作にまとめて世に送り出した努力にいまさらながら賛辞を贈りたい。
新書、222ページ、新潮社、2003/4/10