著:荒川 裕子
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner、1775-1851)の作品と生涯を紹介した本。100ページに満たない厚さだが、ムック本サイズで、オールカラー。ターナーの代表作が数多く載っている。
ターナーは、ヨーロッパ大陸に比べて遅れをとっていたイギリスの絵画のレベルを引き上げることに貢献した風景画家である。「ピクチャレスク」と呼ばれる不規則さや荒々しさを含んだきれい一辺倒ではない美的感覚と、喜悦を引き起こす「崇高(サブプライム)」の美学の風景画。クロード・ロランへの高い評価とその作品の研究。水彩画家から油絵画家への転身。高い評価と名声。殺到する注文。ラファエロなどのオールドマスターの表現様式を規範とする。歴史画への傾倒。ルーブル美術館への訪問、イタリアへの旅行やアルプスへの旅行での成果。
ターナーは日本でも一般的に風景画家として広く知られているが、この本では抽象性を高めていった後期の作品についても手厚めに取り上げられている。「ノラム城に見る表現技法の変遷」という見開きのページはまさにそのようなターナーの作風の変化をわかりやすく示すものであり、画風の違いだけで見るなら同じ画家が描いたものとは思えないくらいである。前衛の時代を先取りしていたといってよいだろう。抜群の色彩感も印象的である。
個人的な話になるが、若いころに国立西洋美術館で開催された「ターナー展」を見に行ったことがあって、混雑がひどくて疲れたこともあって、正直、ルネサンス期のイタリアやパリを中心に活躍した近代絵画の巨匠たちに比べて特別な記憶は残らなかったのだが、この本を読みながら、この芸術家に対する自分の理解がいかに断片的なものだったかを思い知った。なかなか良かった。
単行本、79ページ、東京美術、2017/10/30
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