密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

ワインが語るフランスの歴史

著:山本 博

 

 フランスの歴史とそのワインについて語っている本。著者は世界ソムリエ・コンクールの日本代表審査員や日本輸入ワイン協会会長を務めている。ワイン好きが高じてこのような本を書いたようだ。

 36の章に分かれている。フランスとワインは深い関係にあり、文化のひとつと言ってよい。しかし、フランスでワインが作られるようになったのは意外に新しい。古代ローマの時代に今のフランスにあたるガリア地方を平定(紀元前58-51年)したカエサルは、わざわざ壺に入れて遠くから運んできていたらしい。その古代ローマ支配の時代に耐寒性のぶどうが開発され、広まったという。

 聖書に登場する飲み物であるだけに、3世紀半の布教活動以降のキリスト教とワインの結びつきも印象的だ。「アビニオンの幽囚」で初代教皇に選ばれたクレメンス5世など多くの聖書者がワインを愛し、栽培用のぶどう園を所有していた。ルイ15世の時代には政争の道具にもなっている。ブルゴーニュワインは男性的、ボルドーワインは女性的という。ナポレオンはシャンベルタンというブルゴーニュの中でも勇壮といわれるワインを愛飲していたといわれるが、異論もあるようだ。

 昔のワインは今のものとは違い、瓶詰めが普及するまでは樽だったし、水で薄めて飲んだり、特に赤ワインは赤白を混醸したものだったり、旧酒より新酒の方が人気があったりした。また、すっぱいだけの低品質のものも多かったそうだ。

 1790年頃から糖分添加が広まっているが、全てアルコールに転化するし、香りや味わいがよくなる。パスツールの貢献によって低温殺菌法が登場したのは日本酒などより300年遅い19世紀のこと。

 シャンパーニュ地方のドンペリは、盲目ゆえに嗅覚と味覚が鋭敏だったことから、これが発泡ワインの開発に役立ったし、白ワインを今のような透明なものにするにも貢献したという。

 20世紀前半においても、フェロキセラという強力な病害虫に対抗するため、耐性のあるぶどうの木を接木することが広まった。

 

 このように、ワインが今のような姿になるまでには、数多くの変遷があったことがよくわかる。もちろん、各産地のワインの特徴や香りや味わいについても各所に記述がある。

 

単行本、298ページ、白水社、2009/05