密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

2020年、人工知能は車を運転するのか ~自動運転の現在・過去・未来~

著:西村 直人

 

 障害物を検知して止まる自動ブレーキ。アクセルとブレーキを制御して車間距離を一定に保ちながら自動的に定速走行を行うACC(Adaptive Cruise Control) 。ACCに通信機能を搭載したCACC(Cooperative Adaptive Cruise Control)。前走車追従機能とハンドル支援を組み合わせたプロパイロット。クルマの運転支援技術の進歩は目覚ましい。その先には、完全自動運転の目標がある。クルマの自動運転技術と研究の現在及び今後の見通しについて書かれた本。

 国が主導するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム: Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)には、SIP-adus(SIP Automated Driving for Universal Service)があり、自動走行に関する技術として以下のようなものを挙げている。
 

・外界からの情報:カメラ、レーダー、超音波センサ、GPSなど
・制御システム:通信機能、アプリケーション、機能安全、セキュリティ、各種コントローラー
・データストレージ:ダイナミックマップ、イベントレコーダー
HMI(Human Machine Interface):視聴覚情報提示、ハプティック装置、運転タスク遷移
・車両情報:車速、加速度・減速度、操舵角、横加速度、アクセルペダル状態、ブレーキペダル状態、運転者の状態
・アクチュエーター・インジケーター:ステアリング、ブレーキ、出力制御、灯火、警告灯

 この本では、自動車各社のインタビューが行われている。国産自動車メーカーとしては、トヨタ、日産、ホンダ、マツダの関係者へのインタビューが収録されている。大筋ではあまり違いはないが、各社の取り組みや展望が述べられている。スバルの取り組みや、オムロンのセンシング技術の紹介もある。

 海外の取材も行われている。自動運転レベル4を実現したメルセデス・ベンツの「F015」にも著者は同乗しており、単なる自動運転ということだけでなく、人と車とのコミュニケーションという点にも注力されていることを指摘している。また、スイスのシオンでレベル4の自動運転に相当する自律自動運転で営業運行を行うシャトルバス「ARMA」(ベストマイル社が運行)の同乗記もある。歩行者エリアと呼ばれるエリア限定で最高時速は20[㎞/h]に制限されており、突発事態発生時に備えてスタッフが同乗しているそうだ。CES2017に出展されたライダーの有無にかかわらず自立することができるホンダの二輪車にも触れている。

 自動運転に欠かせないAI研究についても各所に出てくる。同時に、多くの課題があることも説明されている。クルマの自動運転が夢物語とは言えなくなり、部分的もしくは実験走行レベルでは既に様々な成果が生まれていることから考えると、いやがおうでも期待は高まる。しかし、著者の意見としては、2020年は自動運転の最初のステージであり、数多くの課題を克服して人と機械が心を通わせる本当の自動運転の実現は2050年ではないかとしている。

 クルマの自動運転は社会的にも技術的にも世界的に大きなテーマであり、本もいろいろ出ているし、様々な発表も行われている。この本は、国産自動車各社のインタビューや海外取材がある点が良かった。

 

単行本、288ページ、インプレス、2017/2/24