著:青木 冨貴子
終戦後に日本にやってきた米軍兵士と日本人女性の間に生まれた混血児達を支援する施設を立ち上げ奔走した澤田美喜の生涯をたどったノンフィクション。
三菱財閥の宗家である岩崎家の長女として生まれ、「この子が男だったら」と言われるくらい活発な子として育つ。ひょんなことからキリスト教徒になる。周囲の思案の末に嫁ぎ先は外交官となり、夫と共に海外で生活する。語学力などもそれで磨かれたようだ。戦争中は疎開先で特高に監視されることになる。
戦後、財閥解体で岩崎家の豪邸はGHQに利用される。乗った列車の網棚に黒い肌の赤ん坊の死体が見つかり、一時的に犯人だと疑われた経験が直接的に美喜の背中を押し、米軍兵士と日本人女性の間に生まれた混血児達の支援に立ち上がる。
米国に何度か飛んで講演を重ねたり、キリスト教団体や支援者から支援を引き出す一方で、不幸な星の元に生まれた孤児達の存在を大ぴらに問題にされたくないGHQや、反日感情渦巻く米国の反発も買う。岩崎家の蔵からいろいろな物を持ち出して処分したり岩崎家の賃料を回すことでも何とか運営費を工面する。
戦後のGHQの関係者に美喜が一定の影響力を持っていたことを示唆する証言も紹介されている。
美喜が作ったエリザベス・サンダースホームは、現在では虐待を受けるなどした子供たちのための児童養護施設として活動を続けているという。
既にかなり高齢になっている方を含めた関係者に丁寧に取材を重ね、沢田美喜のドラマチックな生涯について描いた本である。
文庫、335ページ、新潮社、2018/1/27