密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

富原文庫蔵 陸軍省城絵図

著:富原 道晴

 

 現在は城ブームだが、城郭含め江戸時代の姿がそのまま残っている例は多くない。しかも、かつて全国の城がどのような姿であったのか、きちんとまとめて残されている資料も意外に少ないそうだ。もっとも重要とされるのは、各藩から提出された絵図を幕府が調整した「正保城絵図」であるが、現在は散逸したものもあるという。それ以外にも断片的な資料はいろいろあるが、全体的なものとなると他にはあまりない。

 この「富原文庫蔵 陸軍省城絵図 」は、明治5年に当時の陸軍が全国に通達を出して主要な城郭の絵図を描かせたものである。同じ時期に、統一して、全国規模で一斉に行われた貴重な調査である。空襲によって失われていたと思われていたが、平成23年群馬県の民家で見つかったという。

 本書は、この「富原文庫蔵 陸軍省城絵図 」を紹介したものである。写真技術が発展途上だったこの頃の調査は、絵図を作成することで行われた。そうして記録された各地の城の絵図が、カラー印刷で豊富に掲載されている。それぞれの地域で別の担当者によって作成されているので描き方はばらつきがある。

 明治の初めの頃には既に破壊が進んでいたものも結構あることがわかる。ただ、まだこの時期は江戸時代の遺構がそのまま残っているものがたくさんあり、今は市街地や公園になっているところでも、その当時はどういう状態だったのかがわかる。きれいに堀が残されていたり、建物が残っているケースも少なくない。

 あくまでも記録用の絵図であるから、地図的な描き方なので、見栄えはそんなにするわけではない。ただ、そのためにちゃんと城郭や縄張りの様子はわかるように描かれているものが多い。中には内部の屋敷の間取りを詳細に描いている図もちらほらとある。

 印刷は良好。お値段は高いが、これは貴重な発見となった史料を、高品質の印刷で、かつ大型本として出しているからである。万人向けではないが、ディープな城好きにとっては興味深い一冊であると思う。

 

単行本、 260ページ、戎光祥出版、2017/5/8

 

富原文庫蔵 陸軍省城絵図

富原文庫蔵 陸軍省城絵図