密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

コトラー マーケティングの未来と日本 時代に先回りする戦略をどう創るか

著:フィリップ・コトラー、監修:鳥山 正博、翻訳:大野 和基

 

「逆説的に思えるかもしれないが、『マーケティングのことしか考えていないマーケティングは、必ず失敗する』のだ。マーケティングの本質を理解し、より多くの人が戦略的マーケティングを理解するように努めなければならない。マーケティング3.0、さらにはマーケティング4.0という潮流のなかで、日本企業は顧客に情報を提供し、価値提案を行う能力を向上させなければならないのだ。そして、顧客の関心を惹きつけ、ロイヤリティを高めるストーリーテリングの腕に、磨きをかけるべきなのである」。

 

 マーケティングの大家であるコトラーの本。コトラーはたくさんの本を出しているが、この本は教科書として読むべきような要となる一冊というよりも、自身の意見をある程度自由に加えながら補足するような位置づけのものである。実際、ここに書かれているマーケティング1.0から3.0への流れは今までの復習になるし、4.0はざっと紹介されている程度のレベルである。

 ただ、日本の読者向けに書かれてあることが本書のウリになっていて、コトラーが根付をはじめとした日本文化を愛し、ドラッカーに呼ばれた際に日本文化コレクションを見せられながら語り合ったことや、日本企業の戦後の目覚ましい成長について注目してきたということにもページが割かれている。もっとも、指摘されている日本及び日本企業の強みや弱みについてはそれほど目新しいものはないように思われた。

 しかし、だからといって読む価値がない本かというと、けしてそうではない。まず、今までの復習的な内容についても、思想家らしい表現でわかりやすく説明されていてハッとさせられるところがあった。何より、時代の変化に応じてマーケティングの適用範囲を非営利分野まで次々広げてきたコトラーの考える範囲がさらに広がってきている様子がはっきり見て取れた。特に、資本主義については、元々ノーベル経済学賞受賞者3人に習っていたが、ひと昔前の消費者が合理的な選択をとることを前提とした理論経済学に強い違和感があったことからマーケティングに鞍替えした過去を説明し、近年の行動経済学マーケティングと相性が良いことを述べたり、ピケティの理論にも言及しながら、「コンシャス・キャピタリズム」という考えを述べている。終盤では、物質主義的ではない幸福の在り方や世界平和についても意見を述べている。

 

 この本を読みながら、もうこの人は、マーケティングの大家という枠では収まりきれなくなってきているのではないかと思えた。

 

単行本、272ページ、朝日新聞出版、2017/8/21

 

コトラー マーケティングの未来と日本 時代に先回りする戦略をどう創るか

コトラー マーケティングの未来と日本 時代に先回りする戦略をどう創るか

  • 作者: フィリップ・コトラー,鳥山正博,大野和基
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/24
  • メディア: 単行本