密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

海上の巨大クレーン これが起重機船だ

著:出水 伯明

 

 1997年に日本海で沈没したナホトカ号の引き揚げ。2002年の東シナ海上での北朝鮮工作船の引き揚げ。2014年の築地大橋の橋げたの運搬。1991年の関西連絡橋の架設。2009年の東京ゲートブリッジの橋桁架設。1970年の戦艦陸奥の砲塔引き揚げ。近年は海洋資源調査のような海洋開発の依頼が増えて第三の柱になっているそうだ。

 海上に浮かぶ巨大な作業用クレーンを搭載した起重機船の魅力とそこで働く人々を紹介した本。著者は起重機船に魅せられた写真家。著者の依頼を快く受けてくれた「深田サルベージ」( http://www.fukasal.co.jp/)という会社の起重機とそこで働く人たちが対象になっている。


 それにしても巨大だ。神戸港を母港とし日本最大級の3700トン吊り上げ可能な起重機船「武蔵」。横浜港を母港とする3000トン吊り上げ可能な「富士」。呉を母港にする2200トン吊り上げ可能な「駿河」。神戸港を母港にする2050トン吊り上げ可能な「金剛」。大きな橋桁や船を持ち上げる写真の数々は壮観である。阪神淡路大震災や東日本大震災の復興にも役立ってきた。ちなみに、起重機船の耐用年数は30から40年という。

 働いている人たちも個性的だ。南部潜りと呼ばれる潜水技術を身に着けた潜水夫は、全国で唯一の潜水科がある岩手県久慈高校の出身。潜水夫は、調査のために海に潜り、吊り上げる対象にワイヤーをかけ、エアリフトと呼ばれる海底の泥を掘る機械を操る。

 ボスーンという職種は、巨大な設置物をわずかな誤差でぴたりと据え付けるための司令塔役である。実際の操作を行うのはブリッジの役割で、ボスーンの合図に対してどこまで動かすかはブリッジの腕次第。このように、乗組員は同じ船で共に働く仲間であり、仕事をうまく成し遂げるにはチームワークが鍵になる。

 

 遠洋ではないので中には家から通う者もいるが、食事は船の中で他の仲間たちと一緒にとっている。巨大クレーン船で働く人々にとって食事は重要で、その胃袋を支える料理人の腕前の確かさや食事の様子についても写真付きでレポートされている。

 起重機船の仕事は巨大なものを対象とするので、運搬や据え付けに失敗すれば取り返しがつかない事態が生じる。ワイヤーひとつとっても巨大で、アンカーも重い。安全面を十分に考慮し、事前に非常に時間をかけて慎重に工程やリスクの洗い出しが行われる。ノウハウと経験の塊である。そして、ひとつとして同じ現場は無いという。

 

 普段は意識することはないが、社会を支えている極めて重要な仕事であることも実感する。そんなに詳しいという本でも専門書でもないが、多くの写真とともに、起重機船の世界を垣間見ることができる。

 

目次
口絵 起重機船<武蔵><富士><駿河><金剛>
プロローグ 起重機船に魅せられて
第1部 知られざる起重機船の世界
第2部 「深田サルベージ建設」の技術と歴史
第3部 海上のつわものたち

 

単行本、159ページ、洋泉社、2017/10/26

海上の巨大クレーン これが起重機船だ

海上の巨大クレーン これが起重機船だ

  • 作者: 出水伯明,深田サルベージ建設株式会社協力
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2017/10/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)