密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

大放言

著:百田 尚樹

 

 過去に読んだ著者の小説の中には印象に残る作品がいくつもあったので手に取った。著者は問題発言で何度かマスコミをにぎわせてきたことがあるが、日本は言論の自由のある国だ。批判を受けている当事者にも自らの考えを述べる権利はある。また、多様な意見を認めることは健全な民主主義国を維持する上で大切なことだ。

 

 しかし、この本、肝心の中身については、うーん、正直、どうだろうか。まず、第1章の現代の若者批判については、自分探しとか、尊敬する人は両親ということとか、コスパを気にするとか、日本国にいくつもある深刻な問題に比べたら、取るに足らないようなことで目くじら立ててページを費やしているように思える。

 第2章の「暴言の中にも真実あり」は、章タイトルの派手さに比べてあまり目新しさのない内容が多い。地方議員の報酬の問題や刑法厳罰化は以前から一部で言われていることであるし、原爆の碑の文言も韓国の歴史認識についても近年数多くの愛国的な論客が語ってきた内容に比べて特にオリジナリティのある視点は見当たらない。図書館への批判は、それが大きな社会的なテーマになっているとか庶民の批判の声を代弁しているような問題だとはいいがたく、公共の福祉というようなこととは無関係に、単に印税を稼ぐ機会を奪われていると思っている著者の個人的な不満を述べているだけのことだろう。

  3章のTVのチャリティ番組のギャラの話も、放言を振りかざすほどの内容だろうか。格差社会については大きなテーマなのだが、このような社会的問題にふさわしい論を展開するだけの十分なデータ集めをした形跡はなく、かつて日本は「国民の9割が中流」といわれた時代があったことに触れることもなく、「江戸時代の格差と比べれば、比較にならない」などと、身も蓋もない主張が散見される。第4章は、過去の著者の放言の言い訳集に過ぎない。

 

 本書には「炎上覚悟。」と書かれた目に付く帯が付けられている。しかし、賛否以前の問題として、勢いはあるが、全体的に内容がもうひとつ薄いように思われた。

 

新書、240ページ、新潮社、2015/8/12

 

大放言 (新潮新書)

大放言 (新潮新書)