著:百田 尚樹
過去に読んだ著者の小説の中には印象に残る作品がいくつもあったので手に取った。著者は問題発言で何度かマスコミをにぎわせてきたことがあるが、日本は言論の自由のある国だ。批判を受けている当事者にも自らの考えを述べる権利はある。また、多様な意見を認めることは健全な民主主義国を維持する上で大切なことだ。
しかし、この本、肝心の中身については、うーん、正直、どうだろうか。まず、第1章の現代の若者批判については、自分探しとか、尊敬する人は両親ということとか、コスパを気にするとか、日本国にいくつもある深刻な問題に比べたら、取るに足らないようなことで目くじら立ててページを費やしているように思える。
第2章の「暴言の中にも真実あり」は、章タイトルの派手さに比べてあまり目新しさのない内容が多い。地方議員の報酬の問題や刑法厳罰化は以前から一部で言われていることであるし、原爆の碑の文言も韓国の歴史認識についても近年数多くの愛国的な論客が語ってきた内容に比べて特にオリジナリティのある視点は見当たらない。図書館への批判は、それが大きな社会的なテーマになっているとか庶民の批判の声を代弁しているような問題だとはいいがたく、公共の福祉というようなこととは無関係に、単に印税を稼ぐ機会を奪われていると思っている著者の個人的な不満を述べているだけのことだろう。
本書には「炎上覚悟。」と書かれた目に付く帯が付けられている。しかし、賛否以前の問題として、勢いはあるが、全体的に内容がもうひとつ薄いように思われた。
新書、240ページ、新潮社、2015/8/12