著:田中マルクス闘莉王
「肩を組み、必死に祈った。絶対に勝つんだと念じた。勝つのは僕らだと信じていた」。
引退を発表したサッカー元日本代表のディフェンダー、田中マルクス闘莉王選手が2010年に出した本。ブラジルの日系人の家庭に生まれ、いろいろな苦労を乗り越えて日本でサッカー選手として活躍するに至った現在までを振り返っている。
中年になってから決意して働きながら猛勉強で弁護士になった勤勉な父親の厳しい教え。来日した当初は、食事も合わず、言葉も通じなくて苦労したこと。4回通読した聖書。
空中戦に強い選手というイメージがあるが、日本に来るまで元々ヘディングがほとんど出来なかったというのはこの本を読むまで知らなかった。高校時代に連日の居残りに付き合ってくれたチームメイトと、練習を重ねたおかげだという。このように節目で出会った人々に対して、闘莉王は本書のあちこちで心からの感謝の気持ちを素直に伝えている。
Jリーグデビュー。広島、水戸、浦和、名古屋。それぞれのチームでの活躍や直面した試練についても書かれている。待ち望んでいた日本への帰化。騒がれた浦和からの移籍については、もっといろいろ想うところがあったのではないかと推測するが、うらみがましいことは特に書かれていない。
日本代表。オシムの考えさせる練習。岡田監督のリーダーシップ。スタッフの配慮。チームのバスが通る時間に合わせ、バスに乗っている選手たちの目に留まるのかもわからないのに応援メッセージを書いた旗を振り続けていた見知らぬサポータからもらった感動。チームの調子が悪かったときの選手同士のミーティング。日本代表としての誇り。仲間への信頼。みんながひとつになって迎えたW杯南ア大会。グループリーグ突破、そして決勝トーナメント。不屈の闘志に支えられた熱い魂がつづられている。
個人的には、南アフリカのワールドカップのグループリーグ3戦目、長身の選手たちをそろえたデンマークが日本のゴール前に次々入れてくるボールを中澤選手との鉄壁のツイントップで跳ね返し続けたシーンが一番記憶に残っている。得点力も抜群だったし、何よりチームが苦しい時ほど声を出し熱い心で支えることができる素晴らしい選手だったと思う。
単行本、236ページ、幻冬舎、2010/12