著:堀井 憲一郎
率直に書いてしまうと、どうひいき目に見ても読んでも何の役にも立たない本で、かつ、調査のための行動範囲がほとんど自分の家の中本棚周辺で済んでいるという、なんとも独創的でゆる~い調査レポートがいくつも掲載された一冊である。
「坊ちゃん」のしおりは何ページにはさまっているのか
名作の段落を数えてみる
名作をどこまで間違わずに音読できるか
詩人はどれだけ文庫に入っているか
本屋大賞受賞作は100グラムいくらか
文庫を左手だけで読んでみる
「吾輩は猫である」を注だけで読む!
作家の名前はどの文字からはじまるものが多いのか
文庫本の(背表紙の)てっぺんから一番上の文字までを測ってみる
100年で漢字率はどう変わったか
名作文庫の上下巻の部数を比べてみる
長い名作文庫の各巻の部数を比べてみる
50年前のSFベスト10を途中まで読む
「流転の海」シリーズで死んだ人を数える
週刊少年ジャンプで打ち切られた漫画を顧みる
他。
しっかし、よくぞまあ、こんなこと考える。そして、著者のゆる~いこだわりと、ダジャレ満載の名調子がいい味を出している。思い切って書いてしまおう。面白い、と。ただし、途中で、「えーっと、オレ、なんでこんな本を読んでいるんだっけ?」と思ってしまうところを除けば。
この本のタイトルになっている「文庫本は何冊積んだら倒れるか」については、丁寧に出版社別に比較して表にしてある。また、「名前が覚えられない『悪霊』の登場人物」とか「ジャンバルジャンはどれくらい出てこないか」は、思わず読みながら、「そうそう!」と思ってしまった。
この本を読みながら改めて気づいたことは、本はすぐ絶版になるということ。かつて名作と呼ばれた作品でも例外ではない。売れなくなると、容赦なく切られる。長期化している出版不況の影響もありそうだ。
著者が本や雑誌の連載を書き始めて気づいたことは、書き手というのは、書き始めは制御できるが、途中からは文章の力に流されながらそれを押し返す自分の意志との案配で文章を仕上げていくものだということ。最初から最後まで一字一句すべての責任をもって書いている人なんてまずいない。このことに気づいてから、本というのはべた読みしなくても、流れに乗りながらどんどん飛ばし読みしても構わない、と気づいたという。そういう知見もあちこちにちりばめられている。
単行本、272ページ、本の雑誌社、2019/9/25