著:長谷川 克也
「東京大学アントレプレナー道場」の講義内容を本にしたものである。起業を目指す東大生向けの講座というと高度で難しい内容では?と思ってしまうかもしれないが、経営やマーケティングや資金調達の基本知識の無い若い理系の学生にスタートアップの基本から教えるという趣旨のものなので、けして難しい内容ではない。一般的な社会常識を持った人であれば、文理関係なく読めばわかる、といった内容になっている。
イノベーションとは何か、どうしてスタートアップの起業家が求められているのか、スタートアップは中小企業の起業とは何が違うのか、というようなことから始まっている。
シリコンバレーのスタートアップのエコシステムを大企業と比較しながら説明した図は、社会経験がある人の方が意味がつかみやすいかもしれない。
結局、会社経営を行うなら、会計・法務・研究開発部門といったように、スタートアップも大企業と同じような機能は必要である。ただし、大企業の場合はそれが内製化されており、スタートアップの場合はスタートアップ用のエコシステムに頼ることでそれを実現する、という違いになる。
顧客は製品やサービスそのものというより、それらが生み出す価値に対価を払うものであることに注意してビジネス領域を定めてゆく。
市場規模(TAM)、SAM(Serviceable Available Market)、SOM(Serviceable and Obtainable Market)の解説。
狙うのは、既存市場か新規市場か。それとも、既存製品か新規製品か。そして、仮説→実験→検証のサイクル。リーンスタートアップ。請負仕事はスケールしないので、スタートアップとしては避けた方がいい、とアドバイスされている。
狭義のビジネスモデルと広義のビジネスモデル。リーンキャンバス。ビジネスモデルキャンバス。事業計画。
資本政策からいくと、スタートアップは最初から多くのオーナーに所有される前提で作っておく必要がある。また、その配分は慎重に考える必要がある。資本政策は後戻りできないからだ。
自己資金だけで起業するのはブートストラップといい、外部から資金を入れずに成長するのをオーガニック・グロースという。しかし、スタートアップは急成長が求められるので、外部からの資本を入れることを最初から考える方がいい。そうしないと、軍資金がすぐに枯渇する恐れがあるからだ。
融資と出資の違い。スタートアップは失敗確率が高く、個人保証を求められる融資は受けてはいけない。ベンチャーキャピタルの仕組み。日本でも広がってきたステージごとの資本増強。EXIT戦略。多様な株式と資本政策。
スタートアップの資金調達と会計について。バーン・レート。知財や特許やバックオフィース。スタートアップの財務諸表。
書きぶりは淡々としているが、必要なことが無駄なくきびきびと書かれている。日本でもスタートアップに関するノウハウが蓄積してきており、スタートアップブームの中で、ここ数年、このような本がポツポツ出始めてきたのは良い傾向だと思う。
単行本、300ページ、東京大学出版会、2019/4/27
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