この「週刊ポスト 2019年 9月13日号」は、「韓国なんて要らない」という特集が掲載されている。
在日作家の柳美里、両親が在日韓国人の深沢潮、さらに何人かの知識人と呼ばれる人たちが、「小学館とは二度と仕事をしない」と宣言して物議を呼び、これを受けて小学館が「お詫び」を発表した号である。
紙媒体で買ってもたいした値段の雑誌ではないが、Kindleだと400円もしない。これだけ非難を浴びるほど問題のある内容なのであれば、ぜひ読んでみようと思って買った。
ところが、実際に読んでみて肩透かしをくらった。なぜなら、どこからどう読んでもまともな記事なのだ。
GSOMIAの破棄はむしろ北朝鮮と対峙している韓国側にとって安全保障上不利益となること、韓国経済GDPの貿易への依存度が68%以上と高いため貿易戦争は韓国にとって不利であること、日本と韓国の得意とするスポーツは重複している種目が多いため韓国内で主張されている東京五輪ボイコットが実現すれば日本のメダルはその分大きく増えることになること、韓国人旅行者が日本で使うお金は中国人・アメリカ人旅行者の3分の1に過ぎないこと、韓流芸能界は日本での売り上げに大きく依存していることなど、まったく当たり前のことが書いてあるのである。
どのように見ても、これは時事問題を取り上げた記事であり、報道の自由の範囲である。社会問題や時事問題に関する報道記事で問題に関係する当事者や団体に対する分析やそれに基づく厳しい批判が混じるのは特別なことではない。よって、批判している人たちはまずこの記事を読んで、具体的に問題点を指摘すべきである。あるいは、深刻な事実認識の問題や人権に関する問題があれば裁判に訴えて戦うべきである。ろくに中身も読まず、左翼思想にそまってきた自分の感情を害されたことを直情的にぶちまけているのでなければ、だが。
ちなみに、かつて朝日新聞の一連の慰安婦報道が問題になったのは、見出しの表現とか書きぶりがどうのというレベルのことではなく、そもそも中身がでっち上げた記事だったからである。
この雑誌の記事に関して小学館があっさり謝罪したことに、内田樹は以下のように書いている。
あえて好戦的で、挑発的な記事を掲載しておきながら、「炎上」範囲が想定外に広がると、たちまち泡を食って謝罪する。この「覚悟のなさ」に私は今の日本のメディア関係者たちの底知れない劣化の徴を見るのである。
何のことはない。結局、ここにも中身については何も書かれていない。「好戦的で、挑発的な記事」とあるが、この記事の一体どこが問題なのか全く書かれていない。この人は批判したときと同様、実際はこの記事を読んでなどいないのである。
この記事を批判している人たちが、「小学館」を標的にしていることも興味深い。文句があるなら、「週刊ポスト」と戦えばいいのに、あえてそこを外して、「小学館とは二度と仕事をしない」と騒ぎ立てる。これを圧力と言わずになんというのか。
小学館が謝罪したことには私も賛成できない。ただ、その背景は想像できる。小学館は出版社であり、様々な部門があり、たくさんの社員が働いており、様々な出版物を手掛けている。要するに商売として総合出版社をやっているので、雑誌以外の自分たちが手掛けているビジネスへの影響が心配になり、謝ってやり過ごそうとしたのである。ぶっちゃけ、出版で生計を立てているので、不合理な知識人たちの圧力に屈することを選択したのであろう。
そもそも、日本人および日本という社会は、よく謝る。とりあえず、誠意を見せて謝って相手の怒りを収めることがこの国で生きていく上では欠かせないテクニックである。小学館で働いている人たちもコテコテの日本人であり、サラリーマンである。あるいは炎上に対しては、誠意を見せて素早く謝って収束させることが賢明、という王道を実践しただだけかもしれない。
知識人たちも日本に長く住んでいるので、その辺はよくわかっている。「週刊ポスト」の編集部だけなら戦う気も責任をとる気もあるかもしれないが、内田樹らはあえてそこを外し、「小学館」をターゲットにした。つまり、最初から連帯責任化させることで正論を封じる圧力を加えたのである。
ただ、どう読んでも間違いがあるわけではない記事を、ろくに中も読んでいない人たちから感情的な反対意見をぶつけられて、世間に生じた誤解をそのままにしたまま、さっさと謝ってやり過ごそうとした小学館の対応にも、やはり問題がある。
これは時事問題あるいは社会問題に関する記事である。今回の批判騒動に際し、小学館は週刊ポストの記事をよく検証した上で、この記事の正しさを改めてきちんと説明し、中身に対する議論に誘導すべきだった。
この程度の内容くらいでろくに中身も読まずに出版社自体を攻撃して言論の自由の封殺を図る知識人たちは卑劣で底が浅いし、あっさり謝ってことなきを得ようとする出版社の側にも疑問を感じざるを得ない。
雑誌、小学館、2019/9/2
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