密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

海外で研究者になる-就活と仕事事情

著:増田 直紀

 

 海外の大学で研究室のボス職(PI: Principal Investigator)になる方法と、その実際について書かれた本。

 イギリスの大学で研究職を得て、さらにアメリカの大学に移ることになったという著者の経験が元になっている。加えて、世界各国でPIの職を得ている日本人研究者17人にインタビューを行い、それぞれの経験や国ごとの違いについても反映してある。日本が特殊というのがあるのだろうが、韓国、中国、香港、台湾、シンガポールといったアジアの国・地域でも欧米型のところが多い。

 

 海外でPI職を得ることのメリットとして、大きく3つが挙げられている。まず、若くして独立して研究室を運営できること。会議が非常に少なく、そのために時間を取られない。研究や私事に利用できるまとまった夏休みがある。

 その一方で、給与や待遇については、個別交渉次第であったり、別な内定をちらつかせて上げるというような、日本人にはあまり得意ではない実態がある。

 大学のランクによってもかなり違いがあり、下位の大学に行くと、給料は低いし、学生の質も低いし、研究よりも教育に割く時間が多くなる。研究費の獲得の苦労も大変である。

 

 一流の大学のPIの職を獲得するのは大変だ。もっとも誤解されやすい点として、研究論文が優秀だから採用しましょう、という風にはなっていない、ということだ。

 一流大学の研究職は競争倍率が高い。日ごろから海外の研究者たちとつながって人脈を作り、推薦書を書いてもらうようにする。通常は、3~4人必要。応募書類はいちいち全部目を通すということはされないので、カバーレターがとても重要。助かる点としては、面接に呼ばれた場合の渡航費用は、たいてい先方が出してくれる。

 

 欧米のPIはカネを取ってくる人であることが求められる。しかし、研究費の獲得は大変である。イギリスの場合、様々な種類の研究費があるが、日本よりも多くの書類を求められるし、採択率も日本より良いということはない。研究費を取れる人が出世するというドライな面もある。

 授業は学生から逆評価されるので、結構厳しい。学生を引き付ける授業を行うようにして、落ちこぼれを放置しないようにしないと、低い点数をつけられてしまう。学生からの評価が低いと、講習を受けさせられる。授業のとき以外でも学生が質問にくる。定期試験の問題は事前に他の教員のチェックを受けなければならない。

 

 研究者らしく、ち密で、堅実な書きぶりである。海外でPIを獲得することのメリットも具体的に書かれているが、日本よりも大変だな、と思うようなこともきちんと書かれている。正直、最初にこの本に書かれていることを全部理解していたら、海外でPIを取ろうとは思わないかもしれない。

 今まであまり類を見ない内容の本であり、大学のPI職以外でどこまで共通していえるかはあるが、興味深い内容だった。

 

新書、253ページ、中央公論新社、2019/6/18

海外で研究者になる-就活と仕事事情 (中公新書)

海外で研究者になる-就活と仕事事情 (中公新書)

  • 作者: 増田直紀
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/06/18
  • メディア: 新書