著:Bae Yeonhong
「太平洋戦争後に独立する祖国など想像もできなかった時代の雰囲気を、現在の歴史の価値観で否定することはできない。変わらない歴史をドラマのように変えたところで、そこから生まれるものは何もない」。
これはもっと読まれてもよい本なのではないかと思う。日本の一部だった当時の朝鮮半島出身者で特攻隊員として散った人達を追った本。著者は、AP通信ソウル支局のカメラマンなどで韓国に2度長期滞在した経歴を持つ在日朝鮮人。
フィリピンで5人、沖縄で12人、B29への体当たりも加えると合計18人。著者が特定した朝鮮出身で特攻隊員として亡くなった人たちの人数である。
ただ、この中には、朝鮮名が仮名であったために存在が特定できなかった人も1人いる。また、1943年5月から海軍も朝鮮・台湾の特別志願兵を受け入れはじめており、そこで帰らぬ人となった朝鮮出身者にも特攻で散った人が含まれている可能性があるようだ。
朝鮮人特攻隊の全体の内訳は、少年飛行兵が最も多く、特別操縦見習い士官(特操)がそれに次き、陸士出身も一人いるという。
日本の内地出身の特攻隊員もそうだが、朝鮮半島出身者はなおのこと、複雑な胸中だったことが遺された証言や記録から推測されるという。既に日本の一部になっていたとはいえ、元々武士道の考えがあった日本とは違って朝鮮にはそのような思想はなかったからだ。このため、自分の運命にどう向かい合うのかは、内地出身の日本人以上に重い課題であったようだ。
一方、朝鮮半島出身の特攻隊員に対する現在の韓国でのイメージは最悪だ。「親日派や売国奴と同義語になっている」という。遺族たちの中にも、親族が特攻隊員として亡くなったことを認めようとしない人や、複雑な想いを抱いている人達がいる。「親日法」をタテにした韓国の親日派狩りのすさまじさや、それによってあぶりだされた有力者達や近代史に名を残す人達の不都合な真実についてもページを割いて説明している。
著者は、韓国でのそのような扱いや評価に対して、「国が失われて久しい朝鮮で日本の軍人になった者が、本当に売国奴なのだろうか。そもそも売る国すらなかったし、台湾同様、朝鮮の人々も日本の外地民族の一員になりつつあったのが、当時の現実だった」と強く疑問を呈している。
台湾の高砂族の兵士たちのことや、朝鮮人初の女性飛行士、免許制度が始まって日本で最初に飛行操縦士となった2人のうち1人は朝鮮半島出身者だったという話、生き残りの旧日本軍の朝鮮人軍人たちが戦後に韓国空軍に尽力したことにも触れている。加藤隼戦闘隊の撃墜王の一人が、朝鮮半島出身者だったとはこの本を読むまで知らなかった。
右とか左ではない。現在の価値観で歪められがちな歴史の真実を、実際はどうだったのか、知りたい伝えたいという想いに支えられてまとめられた一冊である。
新書、188ページ、新潮社、2009/12