密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

「しょぼい起業で生きていく」のは、確かに起業のハードルは低いかもしれないが、それで生きていくのはそう簡単ではないかも

著:えらいてんちょう

 

 しょぼくたって、人は生きていけます。何も悲観することはありません。よく生きづらい社会だと言われますが、うまく使えば、社会はあなたに牙をむいてくることはありません。生きていくための固定費を減らしましょう。自分のできるアルバイトをしましょう。それも無理なら親に頼りましょう。どうしてものときは生活保護があなたを救ってくれます。

 

 どうせ何もかも思い通りになる人生なんてありません。だったら、成り行き任せに、自分の生きやすい方法で生きていくほうが、ストレスがかからないぶん、はるかに楽です。成功したら自分のおかげ、失敗だって、どうにも返せない借金とかに引っかからなければ何度でも再起できます。

 

 就活なんてやってられない、毎朝決まった時間に起きて満員電車に乗って会社に通うのなんて無理、という理由で起業して成功した人が、「しょぼい起業」という方法について説明した本。

 一般的に起業というと多額の事業費を集めて事業計画を立てて尖がったアイディアで会社を興して大きくしていく、というイメージがある。

 しかし、「しょぼい起業」とはそんな世界とは反対である。

 多額の資金はいらないし、特殊な技能もいらないし、綿密な事業もいらない。サラリーマンに向いていない、嫌なことから逃げた人でも、自分でできる範囲でしょぼくやればいい、という主張である。実際、著者は、その方法で成功してきたという。

 

 まず考えるべきは、「生活の資本化」。例えば、商売のために店を借りると高くつくから、借りる店舗は家と共用にする。そうすると商売の収入があまり入ってこなくても実質は家賃払っているだけと同じ。野菜や食品も自分たち用に作って余る分を売る。引っ越しや買い替えで出てくる不要なものから良いものを集めて安く売る。持っている資産をうまく回転させてささやかな起業をする。内装や機器にお金はかけず、近所でいらなくなったものをもらう。

 たとえお客さんが来なかったとしても、店は必ず決まった時間に空けて決まった時間に閉める。店をいごこちのいい空間にして、オープンスペースとして誰かが気軽に寄ってくれるようにする。

 計画で時間を消費するのではなく、やってみる。とにかく、実行が大切。人とのつながりや置かれている環境から、自分ができることを発見して事業化してゆく。店を借りて営業してお金が集まってくれば必要な許可を取ればいい。

 

 出資を募る場合に重要なのは計画ではなく、小さくてもいいから成果を作って見せること。これがうまくいったので、もっと資本があればこれを大きくできるという形で説得する。

 面白いものがあれば、お金を出してもいいという人は世の中にいる。そういう出資者にとっては、投じた資金を持ち逃げしない人、であることがまず大切。

 

 「いま、これができそう」を積み重ねた方がリスクは小さくて済む。実際に店舗を構えていると、社会的なステータスは上がる。ニコニコして頭を下げるのにはコストはいらない。

 重要なのは、資源を眠らせないようにすること。店舗は毎日開ける、人が来る場所として機能している、商品が回転している、車は稼働している、スタッフや自分が働いている。

 商品が適正な価格で売れるのはさらに儲けようという時に考えることであって、まず重要なのはすべての資本を有効に動かし続けることで、そこに注意を向けるべき。

 

 しょぼい起業では、あらゆるコストは限界まで抑制する。従業員は極力雇わない。協力してくれる人が自然に集まるようにする。今は、気持ちよくないと動かない時代。居心地のよい空間でやりたいことをやらせてくれるなら、人はたくさん来る。活気がある店のように見せる。

 望ましい広告は「口こみ」。SNSで人気者になってしまえばいい。なんとなく楽しそう、が人を集める。理論をため込むより実際に経営してみた方が何倍も経験値がたまる。

 

 著者の経験だけでなく、著者が支援した「しょぼい喫茶店」の成功のエピソード、phaと借金玉という人たちとの対談が載っている。わかりやすく、親しみやすく書かれている。

 

 小さく始めるのは、リスクを最小化すると同時に、機動力をもって柔軟にビジネスを展開するには確かにいい。リーンスタートアップ的でもある。

 ただ、読みながら、はじめるだけなら一見やさしそうだが、実際は誰でもうまく回せることではないな、とも思った。うまくいかなくてもダメージを少なめにできるかもしれないが、成功させようとしたらやはり商才がいる。そもそも、いろんな人が自然に集まるようにしていくのはそう簡単なことではないし。

 

単行本、238ページ、イースト・プレス、2018/12/16

しょぼい起業で生きていく

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