著:ジャレド ダイアモンド、訳:長谷川 寿一
気になるテーマを正面から扱った本です。原著が1997年に出版された際に、翻訳者が米国から取り寄せようとしたら、ポルノ扱いされて通関できないから送れないという返事が届いたことがあったそうです。
文庫化にあたって、直訳だった日本語タイトルを変更したそうで、おかげで若い女性店員が立っている本屋のレジでも気兼ねせず買えました。
説明などしてもらう必要はない、そんなの気持ちいいからに決まっているだろう、という、途中でだんだんこみ上げてくる読者の気持ちを見透かして冷静に制しながら、著者は人間の性が他の動物と比べてどれだけ特殊なものか、それがどのような事情によって進化してそうなったのか、自身の推論も交えながら科学的に丹念に解説していきます。
発情期でもないのに、いつもやりたがる生き物は大変めずらしいそうです。ほとんどは女性が妊娠できない期間なのですから、それは確率的に考えると明らかに効率が悪いのです。なのに、人間の女性は、ヒヒの雌のようにタイミングが来れば自然にお尻が赤くなって独特のにおいを振りまいて時期を教える、ということはありません。
また、人間は普通大勢の前で交尾をしません(あくまでも一般的には)。しかも、ライオンや狼やチンパンジーといった最も社会的な哺乳類ですらつがいにはならないのに、人は違います。奇妙なのは、われわれ人間の方なのです。
なぜそうなったのでしょう?また、一般的に寿命に比べて女性の閉経が早いのはなぜなのでしょう?そもそも、男は精子を提供する以外にどうして必要なのでしょう?なぜマッチョな男や美人に惹かれるのでしょう?
日常の会話では避けた方が無難ですが、お酒を飲んだ席とかであれば使えそうなネタもいろいろ書かれてあります。仮説どまりのことも多いので全てが正しいかどうかはわかりませんが、なかなか興味深い内容です。
ちなみに、仮説もそれを唱える学者の性別を反映したものになりがちだそうで、人間が排卵を隠すようになっている理由についてのそれぞれの代表的な仮説は、男性の科学者と女性の科学者によって主張の根拠がまったく反対の意味になっていて面白いです。
尚、著者によると、人間の男が母乳を出すように進化する条件はずらりと揃っている、とのこと。ただし、テクノロジーの力を借りる場合を除くと、そのようになるのは数百万年先のことなので、われわれが自然な形でそれを実体験するのは、当面の間難しそうです。
文庫、234ページ、草思社、2013/6/4