密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

成城石井の創業

著:石井 良明

 

「私が語るのは、10年以上前の経営です。…(中略)…しかし、今も昔も変わらない、経営の原点というものがあります。それはいかに情報を得、いかに情報を価値に変えることができるかということです。これこそが、商売において最も大事なことだと考えています」。


 著者は、実家であった『石井食料品店』を継ぎ、『成城石井』というユニークなスーパーマーケットの形態を築き上げ、店舗数が34店になった2004年に会社を売却して引退している。本書は、その過去をざっと振り返るとともに、どのようなコンセプトと戦略で経営していたのかを語ったものである。

 「一番良いものを売る」という明確なコンセプト。コアターゲットは年収2000万円の人。しかし、「お金持ちはケチです。お金持ちに物を高く売っても、売れません」という。『成城石井』が支持された理由は、「高い品質のものを抑えた価格で販売しており、コストパフォーマンスが良いから」だという。

 そのためには、情報を大切にすること。情報を価値に変えることで、安さという軸が本流にはならなくなる。

 そして、それぞれの売り場が専門店と同じクオリティを持つようにすること。そうすることで、一般のお客様だけでなく、料理の専門家にも支持される。

 また、ユニークで優れた商品をよく品質を吟味して直接各地から仕入れることで卸売業としても成り立つようになる。

 面白いな、と思った点はいくつもある。ABC分析は、売上は低いけれどニーズがある商品を落としてしまうので使わなかった。管理部門の予算を営業部門の粗利の15%と決めて固定することで管理部門の肥大化を抑制する。売上目標は、日本チェーンストア協会から出される既存店売上のデータに対して2%上回ること、という相対的な目標にする。

 ボーナスの額も恣意的には決めず、営業利益の32%とする。ボーナス支給の評価基準は5段階にしてしまうと無難な「3」に集中するので、中間がない4段階にすることで評価が厳正に行われるようにする。

 社員の評価は、上司からの評価+同僚からの評価+部下からの評価の3方向にする。パートタイム社員も45歳までは毎年昇給し、ボーナスも3.4~2.8か月分を出す。学歴に関係なく給与体系は同じにする。

 
 ユニークな商品を集めて売るとんがった個性的な店でありながら、数値管理については最初の頃から徹底していたことは、ある意味で新鮮な驚きだった。

 著者は引退後、いろいろな会社の経営立て直しにかかわっているが、「多くの会社を見てきて感じることは、赤字になる会社はほとんどが数字管理ができていないということです」と述べている。数字を見るということは変化へ迅速に対応するためにも重要なのだという。

 一方、自身の大きな反省としては、後継者を育てることができなかったことを挙げている。

 最後には、現在の日本の人口分布状況を考慮しながら、人口の最も多い層がライフスタイルの基本になるという考え方から、スーパーマーケットの将来についての意見を述べている。また、世の中に多極化の傾向がみられることから、「すべての階層のすべての人に当てはまる」コンセプトを踏襲することには疑問を呈している。

 この本は、波乱万丈のサクセスストーリーを面白おかしく語っているのはない。こういうやり方がこういう理由でうまくいった、その根拠となった考えはこうだった、数値としてはこう出た、ということを中心に書かれてある。そこに特徴がある。自分の経験を糧にして役立てて欲しいという想いがあるからだろうと思われる。

 

単行本、224ページ、日本経済新聞出版社、2016/4/14

成城石井の創業

成城石井の創業

  • 作者: 石井良明
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2016/04/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)