密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

サッカー・ワールドカップ・南アフリカ大会でベスト16に貢献した中澤佑二選手のエリートコースとは無縁の躍進。『下手くそ』

著:中澤 佑二

 

 40歳で引退を表明したサッカー元日本代表CBの中澤佑二選手が、2014年に出した本。サッカーの南アフリカワールドカップでベスト16入りに貢献し、田中マルクス闘莉王選手と鉄壁のツインタワーを形成して対戦国の猛攻を跳ね返し続けた姿は、今でも強烈に目に焼き付いている。

 ところが、これほどまでの選手になったのに、本書に「僕ほどサッカーが下手くそだったプロ選手は、おそらくいないだろう」とあるように、中澤選手は高校は強豪校ではない県立高校に行き、全国大会に出たわけでもなく、サッカーでは全く目立たないキャリアだった。

 それが、どうしてここまで来れたのかを、「下手くそ」という言葉をキーワードにしながら、この本で素直に振り返っている。

 下手くそだから工夫する。下手くそだから努力する。下手くそだから考える。自費でブラジル留学して、その後はニートとなり、なんとか練習生として潜り込んでプロのきっかけをつかむ。しかし、最初の頃は交通費すら自腹という扱い。

 その一方で、輝かしい実績と共に入ってきた才能のある選手たちが消えてゆくのを、今まで数多く見てきたとも言う。

 サッカーを始めたのは小学校6年生のときだから、プロになった選手としてはかなり遅い。中学のときには、サッカー部を退部しようと思っていた。しかし、父親から怒鳴られ、続けることになった。その後の日本代表での活躍を考えれば、われわれ日本のサッカーファンはここでやめさせなかったこのお父さんに感謝しなければならない。

 

 身長も元々は175cmくらいだったのに、毎日牛乳を2リットル飲むようにして急に伸びたという。高校はサッカーの名門ではない。しかも、厳しい練習をチームのメンバーにも求めたために、今でも同窓会の誘いは来ないという。

 ブラジルでは、ハングリー精神に溢れる現地の若者たちから奇異な眼で見られながらも、多くのことを学ぶ。


 日本代表や2度のワールド・カップの舞台裏。おっさん軍団と呼ばれながらも大奮闘した2013年シーズンの横浜F・マリノスのこと。そのときMVPを獲った中村俊輔選手のことにも触れている。

 2006年のドイツ大会と2010年の南アフリカ大会のチームの雰囲気の違いやエピソードについても印象に残った。また、自身の子供の頃の経験から、安易に怒鳴りつける指導には強い疑問を呈しており、仲間と立ち上げたサッカースクールでは「怒らない指導」を徹底しているという。

 「努力の貯金」を重ねる。規則正しい生活を続ける。付き合いが悪いと思われても気にせず、飲み会も断り、食事や健康面にも最大限の注意を払う。仲間とも馴れ合いにはならない。徹底して体のケアも怠らない。最後の「ボンバーの下手くそ人生ゲーム」は、一瞬笑ってしまったが、まさに不屈の精神でここまできたことがよく表されている。すごい選手だった。

 

単行本、170ページ、ダイヤモンド社、2014/4/4

下手くそ

下手くそ

  • 作者: 中澤佑二
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2014/04/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)