密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸

著:パオロ マッツァリーノ

 

 軽妙な文章で読ませる文化史の本。なかなか面白い。10のテーマが取り上げられている。

 江戸時代の土下座とは今の平伏とは違うものだったし、実際にしなければならなかったのは将軍と御三家と将軍家から嫁いだ娘が通るときだけ。

 寺子屋で教えていた人は先生ではなく師匠であり、今の使われ方は近代になってから。ちなみに、現代中国では先生は英語のミスターとほぼ同じ意味。

 日本では「ストリーキング」は「ディズニー・ランド」と同じアクセントで発音されることが多いが、本当はstreakに-ingがついたもの。1981年に全裸泥棒が出現したが、全裸だと体に目がいってしまい顔が覚えにくかったので、何度目撃されてもなかなか捕まらなかった。

 他にも、クールビズに合い通じる半袖開襟の歴史。「笑顔が絶えないない」って?個性的な名前をつけるのは昔からあって、紀貫之は阿古屎(あこくそ)という名前だった。江戸の牛の歴史。ニオイと牛乳殺菌法の意外な歴史。戦前の新聞の一面広告。「亡国論」の歴史。諸説の意味。こういったことが書かれている。

 


 ただ、本書の魅力はそれだけではない。一見、おもしろおかしく書いてあるように読めるのだが、その根底には、数々の資料を手間ひまかけてこつこつ調べ上げてきちんと証拠を集めた上で検証しながら説を構築することの重要さに対する認識と、実際にきちんと調査を重ねた上で書いているのだという著者の自負がある。

 だから、たいして調べもしないで理屈を振り回したがる人に対しては、それがどんな有名人であってもばっさり切り捨ててているし、「自分の頭の良さを過信する思想家や評論家は、地味な捜査を面倒くさがり、華々しい推理だけで理論を構築したがる手抜き名探偵です。具体的・客観的な証拠を集める過程をおろそかにしたぶんを、ご自分のちっぽけな経験と教養と推論で埋め合わせ、そそくさと抽象化してしまいます。その結果、人を煙に巻くだけの、もやっとした推理がはびこるんです」と看破している。

 個人的には、タイプは違うが、堀井 憲一郎の「ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎」を読んだときに近い感じがあった。それほどでもないネタもあるが、全体的にはなかなか面白く読める本だった。

 

文庫、333ページ、筑摩書房、2014/9/10

誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)

誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)

  • 作者: パオロマッツァリーノ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/09/10
  • メディア: 文庫