密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

あのパンティのような体育着はなぜ学校に広まったのか?「ブルマーの謎: 〈女子の身体〉と戦後日本」

著:山本 雄二

 

 ブルマーは1990年代以降の学校の体育の授業からほぼ絶滅したので若い世代にはすでにそのような時代があったことを知らない人も増えているようだが、この本を手にとる中には、かつて学校の体育の時間や体育祭において女子生徒たちが太ももを露わにし、パンツがはみ出たりお尻の一部がはみでたりしている姿を目撃した記憶を持っている人もいるに違いない。それはそれで貴重な青春の一コマかもしれないが、確かにそこに疑問は残る。「なんで、あれが普通だったの?」である。

 本書は、あの事実上パンツそのものといってもさしつかえないものが、全国の中高の女子生徒の体育の時間の標準着衣として、どうして広まったのかの謎に迫ろうとした本である。

 同時に、盗難や盗撮の対象になり、ブルセラショップで高値で取引され、「セクハラ」という概念が広まるにつれて批判の対象となり、この頃急速にMBAやサッカーなどで広まったハーフパンツにとって代わられるまで、約30年もわたって学校現場でブルマーが採用され続けていた理由についても、著者なりの考えを披露している。

 戦前の反省を踏まえ、文部省は、精神主義やスポーツエリートや勝利至上主義を否定する方針を打ち出す。ところが、戦前に世界に輝いていた日本の陸上と水泳のオリンピックの成績が深刻に落ち込み始める。陸上界および水泳界は危機感を抱く。

 1964年の東京オリンピックは全体的には日本の成績はよかったが、そこでも戦前に強かった日本の陸上競技や水泳は復活したとは言えなかった。スポーツ界は10代選手強化の必要性を訴え、その声に応じて文部省は方針を転換してゆく。

 

 そのような時代の変化中で重要な役割を負うことになり多額の運営資金を必要とするようになったのが、中体連である。そこに衣服素材の進歩が加わる。さらに世間一般に東京オリンピックの女子体操選手たちに代表されるような女性の健康美への認識が広がる。そのような様々な背景で、ブルマーが学校の体育着として推されるようになる。

 企業もこの方針にあわせて戦略を打ち出す。著者は、実際にかつてこの分野で学校用の服を扱っていた業者の人たちへの取材も行っている。また、かつてシンガポール日本人学校であったことやその関係者にも会って、意外な事実も引き出されている。純潔教育や女子学生亡国論といった、敗戦後の日本の女性観の揺れや変化との関係についても、著者の意見が述べられている。

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 ただし、この本はあくまでも、真面目に、社会学的な視点から、ブルマーについて調べた本である。

 

単行本、201ページ、青弓社、2016/12/8

ブルマーの謎: 〈女子の身体〉と戦後日本

ブルマーの謎: 〈女子の身体〉と戦後日本

  • 作者: 山本雄二
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2016/12/08
  • メディア: 単行本