密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

テレビドラマにもなった親子の型破りの中学受験の記録。「下剋上受験[文庫版] ―両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した! 」

著:桜井信一

 

「この1年5か月の間、私は娘の真横で何百回と見てきた。問題が解けたときの感動の数々が生み出す『わたしはできるんだ』という気持ち。わたしは今日も頑張ったんだという清々しい気持ち。私は今日もやるべきことはやったんだという清々しい1日の終わり方。数えきれない程の満足感と、『よし!』という表情の回数。この毎日が、人の表情をこんなにも変えてしまう。可愛い我が子だからこそ、そのきらきら輝く表情に妬みを感じることもなくただただ嬉しく思う。娘に勉強ばかりさせる私を、ある意味虐待だと非難する人がいるかもしれない。しかし、誰が何を言おうとも今の娘の表情が答えを出している」。


 型破りすぎて、読みながらこれが実話だとはちょっと信じられなかった。中卒夫婦の父とその娘が、塾に行かず最難関中学を目指して二人三脚で歩んだ中学受験の道のりを振り返ったノンフィクション。民放のTVドラマの元になっている。

 一流中学を狙って勉強するのはとても大変なことだ。中学受験の問題は小学校で習うことだけでは太刀打ちできない。しかも、まだ小学生である。

 そのため親は、生活面での支えや情報収集や学校選びやメンタル面のサポートなど様々なことに奔走する。ただ、本書にもあるように、普通、中学受験のための勉強を教える主体はあくまでも塾であり、そこには長年培われたノウハウと情報があるし、先生がいて、他の生徒もいる。

 ところが、この親子の場合、塾には行かず、家庭だけで完結させている。しかも、この父親はいろいろな教材を入手して吟味し、自ら難解な問題の数々と向かい合って独習し、娘のために前夜のうちに予習して内容を理解して教えている。

 本書を読む限り、この著者の洞察力と分析力はかなりのものがある。外部の手助けを仰いでいるところといえば、一部、知り合いに教材のまとめの手伝いをアルバイトで頼んだりしているくらい。本格的に取り組み始めたのは受験の1年5か月前なので、スタートも遅かった。睡眠時間を削り、精神科からたくさんの薬をもらって心を調整しながらの日々。連日連夜の勉強漬け。娘さんと著者は共に成長している。そして何より、娘を思う熱い気持ちが全編を貫いている。

 この文庫版には、巻末に、文庫版特別企画「桜井佳織より」というのがついている。娘さんがイベント用に録音した際の原稿なのだが、これがまた、ちょっと泣かせる。

 

文庫、408ページ、産経新聞出版、2016/12/22

下剋上受験[文庫版] ―両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した!

下剋上受験[文庫版] ―両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した!

  • 作者: 桜井信一
  • 出版社/メーカー: 産経新聞出版
  • 発売日: 2016/12/22
  • メディア: 文庫