密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

この国で日々発生している膨大な食品ロスと廃棄。「賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか」

著:井出 留美

 

 日本の食品ロスの総量は年間632万トン。これは世界の1年間の食糧援助の総量である320万トンの2倍に迫るほどの量である。それだけ膨大な食品を日本は1国だけで廃棄している。

 また、この632万トンの廃棄量のうち約半分の302万トンが消費者由来であり、残りが飲食店や食品メーカーや販売店といった事業者由来であるという。

 このような大量の食品のロスが、なぜこの国で生じているのかについて書かれた本。複合的な原因が述べられている。タイトルと前半部分に書かれている賞味期限の問題は、そのうちの主要なもののひとつである。

 メーカーは賞味期限を短めに設定することが多い。それは、ひとたび出荷されてしまえば、流通やその後の保存環境でどのように管理されるかわからないからである。

 そのリスクを考えると、企業側はどうしても賞味期限を短めに設定せざるをえない。さらにスーパーやコンビニ業界では、その商品が賞味期限までの期間の残り3分の1に達した時期を「販売期限」として設定している。この「3分の1」ルールは食品ロスを生む大きな原因になっている。

 それに加えて、小売り業界では、賞味期限までの期間の最初の3分の1を納品期限とする商習慣があるので、それを過ぎた商品については仕入れ自体を拒否するのが普通であるという。

 また、日本の小売り業では、欠品を極度に恐れる傾向がある。ある百貨店では、閉店間際に買い物にくるお客様もいるのだから、そのような人たちのためにどんな種類のパンも閉店直前であってもきちんと取りそろえて選べる状態にしておくこと、と店内のパン屋に指導している。このため、このパン屋さんでは毎日閉店後に大量のパンを捨てざるをえなくなっている。

 このような状況はどこも似たようなもので、コンビニは狭いスペースを最大限に有効活用して販売しているので、しばしば欠品を出すような業者は取引対象とはしてもらえない。結果として、供給側はロスを覚悟で過剰に用意せざるを得なくなり、これもまわりまわって食品ロスを生むことにつながっている。

 海外では、レストランで食べきれなかったものを、ドギーバックに詰めて持ち帰る習慣がある。しかし、日本ではなかなか普及しない。それを求める習慣が消費者にないこともあるだろうし、店の側も持ち帰った食べ残しで食中毒でも起きたら問題になるので、積極的に広めようとする動きはそれほど見られない。

 食品ロスの半分近くが出る家庭については、個々の状況があるのでそれほど踏み込まれているわけではないが、ごみ処理場での抜き取り検査の様子などが報告されている。

 冷蔵庫でいつのまにか期限切れになったものを捨てた経験は多くの人が持っているだろうが、業者だけを責めて解決する問題ではなさそうだというのは家庭で発生している膨大な食料ロスの量が物語っている。

 このように毎日大量の食糧が捨てられている日本だが、その一方で、深刻化する社会の二極化の中で、食べるものがなく餓死する親子まで出ている。

 

 著者は、廃棄にまわる食料をそのような貧困家庭などの支援にまわす「フードバンク」の活動を経験している。しかし、そのような支援活動をしていると、栄養が偏っていて添加物も多いコンビニ弁当を食料支援に回すとはなにごとか、と「正義」を振りかざして意見する人もいるそうだ。

 東日本大震災では道路が損傷して交通インフラが麻痺する中で多くの努力で支援の食糧が届けられたが、「同じ食品だけど、メーカーが違うから平等じゃないので配らなかった」というような過度な平等意識で結局ダメになったものもあったそうだ。

 フランスの食糧廃棄量は一人当たり年間20~30Kg。日本は50Kgなので、日本よりはずいぶん少ない。しかし、フランス政府は2020年までにこの廃棄量をさらに半減させる計画を立て、2016年2月に世界初の「食品廃棄禁止法」を制定した。

 フランスではスーパーは売れ残った食品を廃棄できず、フードバンクなどの慈善団体に回すか、飼料などとして活用することが義務付けられた。もっとも、それはそれで、日持ちしない野菜などがフードバンクに殺到し、短期間にそれらをすべて使い切ることはできないため今度はフードバンク側でそれらを廃棄せざるをえない状況が生まれているというから、話は簡単ではない。

 何が悪いのか。どこに問題があるのか。どうすればいいのか。本書を読みながら多くの人が、そう考える筈だ。

 著者は、「消費者エゴ」という言葉すら使って、読者一人ひとりに意識改革を呼びかけている。確かに、消費者の過剰な要求やリスクゼロ指向が背景にあるのは確かだろう。しかし、呼びかけや教育だけで改善できる範囲は必ずしも大きくはないかもしれない。

 本書はあくまで食品ロスをテーマにした本だが、商業主義と食の関係は、食糧廃棄に限らず、実は農業・漁業・畜産業の生産現場においても多くの問題を引き起こしている。本当にそれらをなんとかしなければいけないというのであれば、月並みだが、おそらく一定の規制によって歯止めをかける以外に大きな効果を得られる方法はなかなか見出しにくいのではないだろうか。

 いずれにせよ、消費期限とその周辺の話について説明したものかと思って手に取ったが、実際は、それだけにとどまらない大きな問題の存在を感じさせる本でもあった。

 

新書、220ページ、幻冬舎、2016/10/28

賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか (幻冬舎新書)

賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか (幻冬舎新書)

  • 作者: 井出留美
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 新書