密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

万引き依存症

著:斉藤章佳

 

 万引き依存症についての本。著者は、万引き依存症治療に取り組んでいる精神健康福祉士・社会福祉士。著者のクリニックでの経験と統計及び一般的な情報を元に書かれている。最後は万引きGメンとして有名な人との対談もある。

 

 万引きは同じ人が何度も繰り返す再犯率の高い犯罪である。著者は、依存症的な性格のある慢性的な万引きは、家庭や家族の問題・貧困・孤独といったストレスが引き金になっていることが多いという。万引き依存症のようなものは「行為・プロセス依存」として一般化でき、以下の7つの特徴がある。

 

・強迫性

・衝動性

・反復性

・貪欲性

・有害性

・自我親和性

・行為のエスカレーション

 

 行為・プロセス依存については、判断のガイドラインがある。アメリカの精神病学会が発行している「DSM-5」及び日本でよく利用されている「ICD-10(国際疾病分類)」にも万引きは登場する。特に「DSM-5」では「クレプトマニア」という分類がある。

 

 万引きする人を責めるのは簡単だ。しかし、常習化している人は捕まってもまた再犯を繰り返す。執行猶予中に万引きを繰りかえして実刑になっても、出所したらまたやる。刑務所は治療を行う場所ではないからだ。摂食障害や認知症が関係していることもある。

 

 万引きする人は認知の枠組みを自分の都合の良いように歪める。「レジが混んでいたから」「いつも買っているから」「どうせ買うつもりだった」「この店は儲かっているから」「もっとひどい万引きをしている人もいる」「店の棚がとってくださいといわんかのような配列だから」といった具合。平気でうそをつく人も少なくない。

 

 捕まえても、店側の対応は大変だ。そこで、あえて見て見ぬふりをして警察に通報しないケースもあるという。家族も振り回され、絶望的な気持ちになる。

 

 分量はすくないが、興味深かったのが万引きGメンの伊東ゆう氏との対談。伊東氏は5000人以上万引き犯を捕捉しているというだけあって、発言の中身が濃い。万引き犯はだいたい同じような行動をとる。他の客にわからないように店を出てから丁寧に声をかける。万引きする高齢者のだいたいは認知はしっかりしており、認知症が疑われるケースはそもそも行動がおかしい。警察は協力的ではない地域もあるらしい。店も全国チェーンでも万引きを摘発しないという方針のところもある。加害者に対しては、「恥ずかしい」という感情を刺激しているという。

 

単行本、258ページ、イースト・プレス、2018/9/12

万引き依存症

万引き依存症

  • 作者: 斉藤章佳
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)