密林の図書室

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人力車夫は速すぎてプロ扱いとされ、陸上大会から締め出された。学徒出陣の壮行会場にもなる。旧国立競技場激動のドキュメント。「国立競技場の100年: 明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ」

著:後藤 健生

 

 江戸時代に数多くの武家屋敷があった場所は、明治維新後に大名達が去ってまとまった土地となる。皇室に買い上げられていた代々木の御領地も、元々そのような場所で、現在は森になっている部分も、かつて伊井家の庭園があったところ以外は一面の原っぱであった。

 そこに1912年に崩御した明治天皇を祀る神社として明治神宮が建設され、さらに元々陸軍の練習場所としては手狭だった青山練兵場が外苑として整備される。

 なぜ、その中に競技場が含まれたかについては必ずしも詳しいものが残っているわけではないが、元々神社は伝統的に相撲を奉納する場所とされていた上に、「明治天皇が尚武剛剛健の気風を御奨励あらせ給ひし大御心を奉載」するということで、あっさり規定路線となったようだ。

 そして、1924年10月25日、明治神宮外苑競技場の竣工式が行われる。戦後、第3回アジア大会東京開催決定後にその競技場は取り壊され、国立競技場が建設され、さらに東京オリンピックに向けて改造が行われる。そのような明治神宮外苑競技場と国立競技場を中心として、日本の近代スポーツの歩みについてまとめられた本。

 


 実に丁寧にまとめられている。今の日本には、各地に立派な競技場やサッカー・スタジアムがあるが、かつてはそうではなかった。だから、明治神宮外苑は、西洋からスポーツという概念が持ち込まれて広まる過程において重要な場所となり、明治神宮競技大会をはじめとして様々な大会が開かれた。

 プロ・アマの違いを問われた時代には、人力車の車夫などがプロとみなされて(事実、かなり速くて一緒になった大会では上位独占という事態が発生)締め出されたという。

 スポーツの所管をめぐって文部省と内務省が縄張り争いをしたり、満州国をめぐって極東選手権が第10回で消滅となったり、1938年に東京オリンピックが返上されて、戦時中は学徒出陣の壮行会場ともなる。

 戦後は駐留軍に接収され、競技場は「ナイル・キニック・スタジアム」、明治神宮野球場は「ステートサイド・パーク」と名づけられ、水泳場は白人専用プールで、相撲場は「メイジ・ボウル」という名のボクシング場になる。

 やがて、秩父宮ラグビー場が作られ、明治神宮外苑競技場も日本に戻る。そして、競技場は国立競技場として立て替えられ、オリンピックによって日本の復興を高らかに示す場所になる。Jリーグ発足前はサッカーの聖地であり、大学ラグビーで多くの観客を集める。

 2020年に再び東京でオリンピックが開催される。そして、国立競技場は生まれ変わる予定である。最後に著者は、その後の国立競技場についていくつか提言をおこなっている。丹念に調べて書かれてあり、今とは大きく違う日本のスポーツを取り巻く環境の歴史についてもそのわかる。

 

単行本、390ページ、ミネルヴァ書房、2013/12/15

国立競技場の100年: 明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ

国立競技場の100年: 明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ

  • 作者: 後藤健生
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2013/12/15
  • メディア: 単行本