密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

日本の醜さについて 都市とエゴイズム

著:井上 章一

 

 ヨーロッパの整然とした街並みと比べ、日本の街並みが雑然としていることを取り上げ、それをもって日本人は和を持って貴しとなすというは正しくなく、無秩序とエゴの国だとしている本。この著者は、かつて「京都ぎらい」という本がヒットして話題になったことがあるので、手に取った。

 

 ただ、結論から書くと、個人的にはがっかりだった。日本の街並みが無秩序でヨーロッパは違う、という以上のことは何もない。日本の建築が雑然としていることはこの国に暮らしていればわかるし、著者が好きなイタリアの古都をはじめとするヨーロッパの街並みが整然としているのも行けば誰でも一目でわかる。だからポイントは、だから何?どうして?というというところであるのだが、はっきりいって、その肝心なところの論が浅い。

 たとえば、第二次世界大戦でイタリアはローマの文化遺産を守るために降伏したという、どういう史料からこのような主張がされているのかよくわからないことがいくつも出てくる。さらに、「この点も調べてないので、よくわからないけれど」というような記述も散見される。客観的な資料やエビデンスや証拠不足のまま、本来きちんと調べてから書くべきこともそのようにせず、ただ表面的な違いから思いつくことと自分の感情と推測で文章を書きなぐっているようにしか読めないし、時間のかかる裏とりや地道な調査をはしょって書いているように思える。

 

 

 日本の城、不二家のペコちゃん人形、KFCのカーネルサンダース、道頓堀の食い倒れ人形に対する書きぶりも、単なる言いがかりにさえ読める。しかも、何をいいたいのかはっきりしない文章をだらだら書いた挙句、「今はうまく整理しきれないのだが、いずれはきちんと検討していきたい」である。ちゃんと整理せず、十分な検討もしないで、よくぞまあ、本なぞ出版できるものだ。

 いずれにせよ、これは、論説ではなく、単なる「感想文」である。読むのにたいして時間がかかる本ではないが、中身も軽かった。

 

新書、235ページ、幻冬舎、2018/5/30

日本の醜さについて 都市とエゴイズム (幻冬舎新書)

日本の醜さについて 都市とエゴイズム (幻冬舎新書)

  • 作者: 井上章一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/05/30
  • メディア: 新書