著:山岡 耕春
南海トラフでは過去に何度も巨大地震が繰り返されてきた。マグニチュード8~9クラス。今後30年以内の発生確率は約70%。それが、日本の人口と経済と産業がもっとも集中する地域を襲う。
揺れの被害大きいが、それだけではない。木造住宅の密集地では火災が発生する。海抜ゼロメートル付近では堤防が決壊する可能性も指摘されている。
津波の被害もまた甚大になると想定される。南海トラフ地震の場合、地域によっては津波発生から到達までわずかな時間しかない。
東日本大震災では980万人の被災者を日本の残りの人口である1億1700万人で支えたが、南海トラフ地震では3500万人の被災者を残りの9200万人で支えることになる。しかも、過去の例から、余震が続くだけでなく、しばらくして富士山の噴火がやってくる可能性が高い。
西日本では電力供給能力は5割程度になるという。製油所の稼働が止まることも大きな影響を及ぼす。電気や水道や物資の輸送に必要なルートの復旧だけでも3~7日程度は必要。通信もしばらく遮断されたりつながりにくくなる可能性がある。
鉄道、道路、空港、港湾施設もダメージを受ける。工場の多くが停止し、サプライチェーンは寸断され、影響は世界に及ぶ。大きな損害を受けた太平洋ベルト地帯が元のように回復するには大変な労力と時間が必要になる。
自助・共助・公助の防災努力の必要性。津波は30㎝で人が流され、2mで木造家屋が流される。避難訓練の重要性。災害対策にはどうしても限界がある。
それがいつになるのかという確実な予想は難しいが、いつか必ず来るということだけは間違いない。このような大規模な災害と周期的に向かい合わなければならないというのは、日本列島に生きる限り逃れられない宿命であることを覚悟させてくれる本だ。
新書、240ページ、岩波書店、2016/1/21