著:NHKスペシャル取材班
「睡眠負債」という言葉は、2017年の新語・流行語大賞のトップ10に入ったという。英語の”Sleeping Debt”を訳してTV番組として紹介したNHKスペシャルの取材班が、番組では紹介しきれなかったことも盛り込んで世に出した本である。
脳はエネルギー消費が活発な臓器なので老廃物が多く生産される。ところが、脳にはリンパ管が存在しておらず、老廃物を含んだ組織間液(ISF)は脳骨髄液に灌流され、除去しようとする働きがある。この仕組みは「グリンパティック」と呼ばれるが、この老廃物除去の仕組みは、睡眠中において覚醒中の10倍活発になる。
つまり、脳の老廃物の除去活動は睡眠中がもっとも重要なのである。例えば、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβは睡眠不足のマウスで増加することが実験によって確かめられている。その後、十分な睡眠をとらせると、アミロイドβは減ったという。
認知症だけではない。睡眠不足は、体の免疫システムも低下させる。このため、がん細胞が増殖しやすくなるとしている研究者たちもいる。東北大学の研究でも、前立せんがんは1.38倍、乳がんリスクは1.67倍になると報告されている。
しかし、現代の日本国民の約4割が1日の睡眠時間が6時間未満という状態である。これはOECD加盟25か国のうち、ノルウェーと並んで23位で、これより下は韓国だけである。世界的なシンクタンクであるランド研究所によると、日本は睡眠不足によってGDPの1.86~2.92%を失っているという。
といっても、眠りたいのに眠れない、目が覚めてしまう、という人も少なくない。そんなあなたのために、本書は、「すみやかに寝るだめの10カ条」として、以下のものを挙げている。
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午前中に日の光を浴びよ
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食事の時間は一定にせよ
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運動は夕方に。散歩もよし
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カフェインは寝る3時間前まで
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酒は寝る3時間前まで
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寝る2時間前より強い光を避けよ
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風呂は寝る30分前に
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寝室は18~26度に保つべし
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布団でのスマホ・ゲームはご法度
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寝なきゃとあせるべからず
後半はQ&A形式になっている。「睡眠は時間より質と深さ」ということについてはあっさり否定されていて、質だけでなく時間も大切であり、最低6時間以上、できれば7時間以上眠ることが奨励されている。また、昼休みに少しだけ眠っても、脳のリフレッシュにはなるが、それが夜の睡眠の代わりになるということは考えない方がいいようだ。寝酒にも否定的である。睡眠導入剤については、眠りの質は高くないし、長期間の使用は避けるべきであるとしている。また、シフト勤務や夜勤は体に悪いという指摘もされている。
あっさり読める。特に前提知識もいらない。そうはいっても、といいたくなる記述も散見されるのだが、この本に書かれていることは自分には全く関係ないという人は少ないだろうから、読む価値はある。
新書、192ページ、朝日新聞出版、2018/4/13