著:谷岡 一郎
面白かった。確率統計の凄さを教えてくれる本としては、「その数学が戦略を決める」と並ぶくらい面白い。いや、対象を勝負事に絞ってじっくり検討しているという点では、むしろこちらの方が実際には含蓄があり、役に立つかもしれない。
確率、分散、そして期待値。実は、それだけなのだ。しかし、これが深く、冷たく、凄い。本書は、賭け事に焦点を絞っているが、人間心理と確率統計論の対比によって、人間というものがもつある一面を浮き立たせることにも成功している。
同時に、正確な数学的知識に頼らない場合、人間の理性や判断力というものがいかに底の浅いものになってしまうかも垣間見せてくれる。
それにしても、著者は相当賭け事に詳しい。本書の面白さは、単に学者が書いているというところにあるのではなく、自身も若いときからいくつかの賭け事に夢中になってきた経験に裏打ちされているところにある。
ちょっと古い本なので、totoに関する詳しい情報が無いのは残念だった。また、この考え方は社会や人生の様々な場面で応用可能な部分があると思われるので、別章で確率統計論で儲けている他の産業、例えば生命保険などの考え方についてもさっと紹介してくれたらよかったかもしれない。ただ、着眼点がよく、興味深く読める本だった。
新書、234ページ、PHP研究所、1997/7/1