密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

ICカードと自動改札 (交通ブックス)

著:椎橋 章夫

 

JRの例を中心に、ICカードと自動改札について解説した本。大阪万博をにらんで1967年に開業した阪急千里中央駅で、自動改札の実用機が日本で初めて導入された。当初は光学パンチ式であった。日本の自動改札はこれ以降、関西や地下鉄での利用が先行した。一方、首都圏は複数の鉄道事業者の相互乗り入れが障害となり普及が遅れた。また、当時の国鉄は慢性的な赤字による資金不足と組合の合理化への懸念による反対があった。しかし、JRの分割民営化によってこの流れは変わり、1990年に自動改札が山手線に導入された。目的は、「省力化」「サービスの向上」「不正乗車対策」「近代化イメージの訴求」とされた。不正乗車については、首都圏だけで年間300億円分あると推計されていた。

海外の自動改札はターンバー機構のものが多いが、日本ではラッシュアワーの1分間あたりの改札の通過人数が55人/分程度であるために、40人/分程度しかさばけないターンバー方式は不適とされて今のようなドア方式になった。ターンバー方式は妊婦のおなかへの懸念の声もあった。ただし、ドア方式は無理矢理通過できるため利用者のモラルへの期待を前提とした日本的な方式だといえる。

自動改札は大きく分けて、一般型、新幹線型、簡易型、IC専用型があるが、細かく分けるとずいぶんいろいろ種類がある。JRの場合、駅の自動改札、券売機、精算機は、同じ駅構内の事務所にあるモニタリング用の「統合監視盤」と「操作卓」につながっており、データについては集計機へ送られる仕組みになっている。そして、主計器の情報は同じ駅にある「Suica ID管理」「TOMAS」「駅収入管理」の3つのサーバシステムを経由して、離れたセンターにある「Suica ID管理システム」「TOMASシステム」「駅収入管理システム」に送られる。紛失や盗難などによってSuica定期券が再発行された時は、紛失したカードの番号はネガ情報として各駅のシステムに送られて利用停止となる。

JRの自動券売機で発行される磁気方式の小型切符はエドモンソン券という。券面により多くの情報を表示したものは大型乗車券で57.5mm X 85mmのサイズとなっており、特急券などの料金券にも使われている。

Suicaは非接触型のICカードで、マイクロチップと端子が埋め込まれている。電磁誘導をつかって改札と情報をやり取りする。定期券としても使うために表面がリライトできる日本独自の方式を備えている。大きく分けて記名式と無記名式のものがある。しかし、交通系ICカードの導入までにはかなりの時間を必要とし、結局実用化まで十数年が費やされた。Suicaの導入は3次にわたるフィールド試験によって改良が重ねられた。発行枚数は導入直後から順調に伸び、2014年12月末現在で4,951万枚に達している。鉄道各社の相互利用も拡大している。用途も広がり、ルミネカードを皮切りにクレジットカード機能を備えたものが登場し、利用できる店舗も増え、銀行との提携も行われている。発券機の歴史も取り上げられている。

簡潔にまとめられている。全て白黒印刷だが、自動改札の構造といった図が適時掲載されている。技術的にすごく詳しいということではないが、Suicaを中心とする鉄道のICカードと自動改札の概要について知るには良い本である。

 

単行本、178ページ、交通研究協会、2015/4/1

ICカードと自動改札 (交通ブックス)

ICカードと自動改札 (交通ブックス)

  • 作者: 椎橋章夫
  • 出版社/メーカー: 交通研究協会
  • 発売日: 2015/04/01
  • メディア: 単行本