密林の図書室

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焼け野原だった終戦直後の東京に闇市が立ちバラックが次々ひしめく。警察も治安維持のため露店組織と手を結ぶ。「東京戦後地図」

著:藤木TDC

 

 戦争で焼野原になり食糧も極端に不足する終戦直後の東京に、ヤミ市が次々と建ち始める。当初は板や風呂敷を敷いた青空マーケットだったが、テキヤが管理者になってバラックと呼ばれる仮設店舗があちこちにひしめく状態になる。1950年台の地図と古い貴重な写真を紹介しながら、戦後の東京およびその周辺でヤミ市が立った場所を追い、それらがどうなっていったのかをレポートした本である。

 警察は1945年には露店組織と手を結び、秩序維持と市場の健全化を進める。生活物質の統制が解除され日本が復興に向かう中で、露天商たちも次第に店舗化し、流通の仕組みも整備されて、ヤミ市は減ってゆく。

 さらに、1949年(昭和24年)9月にGHQの指示を引き金とした東京都・警察庁・消防庁が露店撤去方針の打ち出しがあり、同時に駅前区画整理事業が行われるようになって、ヤミ市は姿を消してゆく。ただ、自力で移転先を確保できない業者にとっては死活問題であり、そこで東京都が「換地」と呼ばれる代替営業地を斡旋。それらが都内の飲み屋横丁として定着したという。

 浅草寺など一帯を焼き尽くした空襲から仲見世商店が奇跡的に焼け残った浅草。もともと江戸時代から続く露天商たちもいて、立ち直りへの動きは早かった。1949年の露店撤去令でも浅草寺周辺だけは存続を許されて、「伝法院通り」に並ぶ店舗はその流れに続いている。

 神田では焼け跡にびっしりと屋台が並ぶ。それらは露店撤去令後に八重洲の酒場の源流のひとつになったり、江戸時代に防火帯として作られた龍閑川が瓦礫処理用に埋め立てられて換地になったところに移転したり、「神田小路」や「今川小路」につながる。銀座では700軒を超える長大な露店通りがあった。ここも江戸時代から続く運河であった三十間堀川を埋め立てて換地として利用された。

 秋葉原は、戦前は青果市場だった。電気街になったのは、ヤミ市の中に現在の東京電機大学の前身である専門学校の学生目立てに中古真空管などを扱う業者が現れて、それがよく売れたので他の露天商も真似たことがきっかけだという。

 新橋は関東最大の巨大ヤミ市が広がり、松田組長と港区長が在日台湾省民と激しく対立した「新橋事件」が発生する。同様な大規模な抗争事件は渋谷でもあった。

 


 池袋東口のヤミ市は、森田組の方針と行政との連携で早い時期に商業マーケット化に踏み出し他地域の見本となった。一方、同じ池袋の西口は整理が遅れた。

 板橋は埼玉から入ってくる農産物目当てに買い出し客があふれた。赤羽も同様で、ヤミ物資の一大集散地として栄えた。なお、北区・板橋区には旧軍の施設が多数あり、陸軍将校相手の花街もあり、終戦後は米軍がたくさん駐留していた。それらの施設がどうなったのかも書かれている。

 

 新宿はもっとも早くヤミ市がはじまった場所で、尾津組マーケットで戦後5日目から開始している。「思い出横丁」はその名残を残す場所として今では人気スポットである。ヤミ市からマーケットになった流れを引く吉祥寺の「ハモニカ横丁」も今では観光資源になっている。

 中野には新宿以西では最大のヤミ市があった。荻窪のヤミ市は組合がしっかりしていたので残存率が高く、振興マーケット化してさらに一部は「タウンセブン」などに形を変えた。錦糸町は映画館と劇場が空襲から生き残ったため、興行町として復興した。

 

 小岩は「小岩ベニスマーケット」という人気商店街がかつてあった。蒲田の西口マーケットの位置はそのまま現在の蒲田西口商店街と重なる。横浜では関内・福富町・伊勢佐々木町方面が進駐軍用になったので、日本人は野毛・桜木地区に集まり、ここにヤミ市が立った。船橋は農地や漁港があり千葉からの物資も入ってきて、買い出し客が殺到した。

 ヤミ市跡を示す地図は、都市製図社が火災保険会社の依頼によって保険料査定資料として作成した『火災保険特殊地図』から引用されている。淡々と描かれているが、この戦後の混乱期にいろいろなドラマがあったことは想像に難くない。現在に続いている面影がみられる場所もあり、なかなか興味深く読めた。

 

単行本、192ページ、実業之日本社、2016/6/17

東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く

東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く

 

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