密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

江戸のベストセラー

著:清丸 惠三郎

 

 江戸時代に誕生したベストセラー本について、その背景や作者や内容や、どうして当時おおいに受け入れられたのか、について解説した本。

 取り上げられているのは、『嵯峨本』、『塵劫記』、『好色一代男』、『武鑑』、『曽根崎心中』、『解体新書』、『吉原細見』、『東海道中膝栗毛』、『南総里見八犬伝』、『東海道四谷怪談』、『江戸繁昌記』の12作。

 日本人なら少なくともタイトルくらいは普通に知っているものが多く含まれている一方で、現代では一般的な知名度はそれほど高くはないものの当時は貴重な情報源やガイドブックとして重宝されたものもある。

 現代でもそうだが、ベストセラーは時代や文化や人々の好みを反映する。和算の『塵劫記』の流行りには、江戸時代の日本の数学への関心の高さを垣間見ることができる。『解体新書』が広く世に出る過程も興味深い。翻訳に苦労したことは知られているが、幕府から禁令になることを恐れていろいろな行程が踏まれたことは知らなかった。

 『武鑑』は現代でいうなら「役員四季報」と「会社四季報」を兼ねた武家版という感じだろうか。

 『東海道中膝栗毛』は旅行の話なのに、名所旧跡や神社仏閣はほとんど登場しないというのは、言われてみればなるほど、と思った。しかも、弥次さん喜多さんは実は性的な関係の2人だったという。

 『曽根崎心中』が偶発的に生まれた背景についての話もある。また、当時は著作権という考えがなかったので、重版と呼ばれる海賊版が横行して、出版側が対策に頭を悩ませたようだ。この12作以外にもいろんなベストセラーがあり、それらについても、最初の章でまとめて軽く紹介されている。

 『四谷怪談』など、今でも広く馴染みのある作品がこの時代にいくつか生まれているし、著者が激賞しているように、『八犬伝』の構想雄大さを超える奇伝歴史小説は確かに現代でも無いかもしれない。

 また、江戸時代は寺子屋の普及などで日本は識字率が高かったということがよく言われるが、確かに出版文化というのはそのような基礎が無いと大きくは育たない。江戸のベストセラーを通じて、当時の人々の教養の高さや発想の豊かさや、文化的な嗜好についても間接的に触れられた。

 

単行本、223ページ、洋泉社、2017/6/20

江戸のベストセラー

江戸のベストセラー

  • 作者: 清丸惠三郎
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2017/06/20
  • メディア: 単行本