密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

リアルな地下アイドルがわかる。地下アイドルが語る地下アイドル。「職業としての地下アイドル 」

著:姫乃たま

 

 自身も地下アイドルをやっている著者が、地下アイドルの世界について一般向けに書いた本。著者は、中学でいじめに遭い、高校生の時に地下アイドルになり、一度鬱になって引退して、また復活して地下アイドルを続けている。そういった中で地下アイドルの世界について、見知ったことや本人の体験と心理が書かれている。また、地下アイドル達とファンの両方に対してアンケートを取った結果が書かれており、これが重要なポイントになっている。

 地下アイドルは簡単になれるという。ライブ中心だが、一組あたりの集客は少ないので共演が多い。ライブハウスにとっても、地下アイドルは単価が高いうえに音響装置に凝らなくてよく、安定した収入源になる。結果として、地下アイドルの需要は多く、不足しがち。デビューしたてのころは、ライブハウスでカラオケをやっている感じだという。

 新人やあまり売れていない地下アイドルを専門にするコアなファン層がある。特定のファンが少ないので、地下アイドルは少ないコアなファンとの付き合いが濃くなる傾向がある。

 一方で、すぐ辞めてしまうのもこの世界。右も左もわからずにはじめて、右も左もわからずに辞めてゆく。1年目は夢中でやって、2年目はファンのためにどうしたらいいか工夫し、3年目で疲れ果てて引退するというパターンがある。ただ、それを乗り越えた人は、長く続ける傾向があって、著者もそういう一人らしい。

 また、地下アイドルは、容姿が整いすぎているのは必ずしもよくなく、ファンとの直接の交流が多いので容姿以外も重要だという。

 枕営業についても書いてあるが、「地下アイドルの世界では、枕営業の見返りになるような仕事を持ちかけられるほどの権力者があまりいないのが実情」という。地下アイドルの平均年収は120万円くらいで、実入りはあまりよくなさそうだ。むしろファン側の平均年収の方がずっと多いように見える。仕事の依頼も左右するSNSの反応。ブログ。スマホの重要性。写真。グラビアの副業。たまにいる過激なファンの要求への対応。  
 印象的だったのは、どういう女性が地下アイドルになるのか、というところ。有名になりたいという動機はわかりやすいが、背景として、両親に愛されながら学校ではいじめられた体験を持つという人が結構多いのは興味をそそられた。

 熱心なファンについても、ちょっとイメージが違うところがあり、地下アイドルファンは頻繁に地下アイドルと接しているので女の子慣れしており、一定の収入がある30代の人が多い、という。地下アイドルが一般化した歴史的な経緯についても簡単に説明されている。

 地下アイドルというと一部の事件とその報道から、少々危険なイメージも一般にはあるが、そのような人は実際はごく一部であり、そもそも世の中一般でも危ない人は一定の割合いるものであることが強調されている。

 地下アイドルについて漠然としたイメージしかいない人には、当事者の経験談とアンケートからこの世界を垣間見ることができる。書きぶりは落ち着いているが、ひとつひとつの記述を読むと、なかなか大変な世界だなと思う。

 

新書、272ページ、朝日新聞出版、2017/9/13

職業としての地下アイドル (朝日新書)

職業としての地下アイドル (朝日新書)

  • 作者: 姫乃たま
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2017/09/13
  • メディア: 新書