著:内藤 正人
歌川広重(1797-1859)の代表作と特徴をその生涯とともに解説した本。80ページしかないが、オールカラーで印刷良好。ムック本サイズ。
三十俵二人扶持という微禄ながら幕府の御家人の長男として生まれる。数え13歳で両親を相次いで失って安藤家の家督を継ぐ。将来絵は得意であったようで、乏しい本業の収入を補うこともあって浮世絵師を志したのだろうと推測されている。同じく火消屋敷に勤める林斎も、狩野派絵師として当時は有名だったそうだ。
入門した師は歌川豊広で、温雅な画風を学ぶ。文政6年(1823年)に安藤家の火消同心職を祖父の子に譲って専業の絵師となる。
文政12年には師が亡くなる。豊広号襲名を辞退して「一遊斎」から「一幽斎」に名を改め、天保2年には「一立斎」とする。
大ヒットとなった「東海道五拾三次」を送り出したのは天保4年(1833年)で、37歳になってからである。以降、広重は、街道もの、江戸名所もの、諸国名所もの、さらには花鳥画において次々秀作を出し、浮世絵界の新星になる。
「東都名所 高輪之明月」における、高輪沖をダイナミックに飛行する雁の構図は見事。同じく「東都名所」の「吉原中之町夜桜」の左右に消失点を持つ西洋画由来と思われる透視図法の構図については詳細に解説されている。
「東海道五拾三次 亀山 雪晴」の雪晴の斜面と木々の傾斜構図は凛とした冷気を実にうまく表現しているし、「江戸近郊八景之内 飛鳥山暮雪」も冬の雰囲気を描いた傑作である。
「京都名所之内 あらし山満花」の桜のトンネルをあえて左下部から右上部へ川に浮かぶ筏とともに引いた構図は動きがあって目を引く。金沢八景のスケッチから起こした絵の変容や風景画における種本との比較およびそこからのモチーフの改変内容は広重の絵のセンスの一端を物語っているようだ。花鳥画もすばらしい。
円山派から学んだ技法もうまく取り込まれている。「吉原大門夜桜之景」の濃淡の表現は素晴らしく天空に浮かんだ月との縦の配置も絶妙である。ゴッホの模写で有名になった「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」といった作品も取り上げられている。
本書の解説では、特に近代を先取りしたかのような技法の新しさについて適時強調されている。北斎との人気の比較も行われているが、得意分野が違うのであまりフェアな比較ではない気はする。2代目広重(重宣)と3代目広重(重政)の作品も、わずかだが載っている。
単行本、80ページ、東京美術、2007/6/30
もっと知りたい歌川広重―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
- 作者: 内藤正人
- 出版社/メーカー: 東京美術
- 発売日: 2007/06/30
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もっと知りたい歌川広重 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) [ 内藤正人 ]
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