著:武田 知弘
紡績はもちろん、自転車におもちゃに鉄と、貿易大国だった戦前の日本。アジアの革命家の拠点でもあった。世界の最先端分野がいくつもあった科学力。
全身に入れ墨を入れていた小泉又次郎代議士(小泉純一郎の祖父)。合法的な売春地帯であった遊郭。カフェの女給は今でいうスナックや風俗店に近い存在だった。やんちゃだった戦前の不良少年少女たち。ロシア革命によって数千人規模で入ってきた白系ロシア人。
タイトル通りの本である。主に昭和初期を中心に書かれているが、適時明治時代や大正時代についても触れてある。気軽に読める。
海底トンネルを掘って東京と北京を直通列車で結ぼうとしていただけでなく、中央アジアを横断してベルリンまでつながる鉄道を作る構想まであった。
昭和3年には東京を抜いて大阪が日本一の人口の市であった。昭和4年に公開された日本映画の数は現在の1.5倍。実に過酷で厳しかった受験競争。旧民法と戸籍法によって戸主が頂点だった家制度。離婚や事実婚が多かった実態。
サラリーマンはエリートだった。財閥への財の集中。華族制度。住宅事情。日本独特のデパート文化。下層社会の厳しさ。検閲制度や労働争議。海を渡った移民たち。徴兵制度と徴兵逃れ。軍都。
著者は、「一口では説明できないほどの多様さと雑然さ。それが戦前の日本だったのだ」と、冒頭部分で述べている。現代の日本と比較しながら読むと、なかなか感慨深いものがあった。
文庫、256ページ、彩図社、2016/1/15