著:フランツ カフカ、訳:頭木 弘樹
カフカが残した言葉を集めて、解説をつけて編集した本。自己啓発本が根強く流行る世の中で、なんともネガティブだらけの後ろ向きなメッセージの数々が新鮮に響いてくる。
「将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。将来に向かってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」。
「ぼくは彼女なしで生きることはできない。...しかしぼくは...彼女とともに生きることもできないだろう」。
「幸福になるための、完璧な方法がひとつだけある。それは、自己の中にある確固たるものを信じ、しかもそれを磨くための努力をしないことである」。
「誰でも、あるのままの相手を愛することはできる。しかし、ありのままの相手といっしょに生活することはできない」。
「いつだったか足を骨折したことがある。生涯でもっとも美しい体験であった」。
「ぼくは今、結核に助けを借りています。たとえば子供がスカートをつかむように、大きな支えを」。
「ぼくの人生は、自殺したいという願望を払いのけることだけに費やされてしまった」。
父親へのコンプレックス。痩せてひょろ長い体。自分はダメにちがいないという思い込み。神経質で敏感。
実は、元々は弱い体ということではなかったようだが、虚弱により自分を追い込んでいく。学校では劣等生。
いやいや働き続けるが、実際の勤務ぶりは真面目だったようだ。しかし、そのうち結核にかかり、結局、給料の半額の年金をもらって過ごす。3回婚約したそうだが、カフカ側の問題で全て破棄したという。ちなみにそのうちの一人は、その後、大金持ちと結婚して子供も2人できたそうだ。
作家を目指すが、生前は全く売れなかった。遺稿はすべて焼却するように、という遺言を残す。しかし、幸いにしてそれを託された友人はそのようにはしなかった。そして、いくつかの有名な作品と、これらのメッセージが後世に残ることになった。
人は絶望によって何かを生み出すこともできる、というのがこの本の訳者のメッセージである。確かにそういう一面はあるのだろう。カフカのネガティブな言葉の数々は意外なパワーをくれる。
文庫、267ページ、新潮社、2014/10/28